アメリカでは高級車や不動産より高値で取引されるワインがある。一体、どんなワインなのか。ワインスペシャリストの渡辺順子さんは「それはアメリカで生産された『カルトワイン』だ。設立者は、元弁護士や元金融マンなどワインビジネスと畑違いの分野で活躍してきた超エリートたち。頭脳集団である彼らは、誕生したばかりのワインを巧みな戦略で超一流ワインへと押し上げた」という――。

※本稿は、渡辺順子『「家飲み」で身につける 語れるワイン』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

グラスにワインを注ぐ場面
写真=iStock.com/kuppa_rock
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“不動のワイン王”トーマス・ジェファーソンの素顔

ワイン造りが定着したのは、イギリスによりアメリカ大陸の植民地が始まった17〜18世紀ごろ。現在の東海岸に位置するバージニア州で初めてワイン造りが行われました。

第3代アメリカ大統領トーマス・ジェファーソンも、地元のバージニア州にぶどう畑と醸造所を開設しワイン造りを始めました。現在もそのワイナリーは健在です。

大のワイン好きとして知られるジェファーソンは、現在の歴代ワイン好きランキングでも常に堂々1位に選ばれ、不動のワイン王として親しまれている存在です。

ジェファーソンは「テロワール」の概念を知り、テロワールがワイン造りの要であることを認識します。彼は、栽培や醸造の記録を残しました。

後にこの記録は「ジェファーソンマニュアル」と呼ばれ、東海岸でワイン醸造を行ううえで大きな助けになったそうです。

渡辺順子『「家飲み」で身につける 語れるワイン』(日本経済新聞出版)
渡辺順子『「家飲み」で身につける 語れるワイン』(日本経済新聞出版)

フランスでの4年の任期を終えてアメリカに戻ったジェファーソンは第1代アメリカ大統領ジョージ・ワシントンのもとで初代国務長官を務めますが、そのかたわら本場で学んだワインの知識がかわれ、ホワイトハウスのワイン顧問兼バイヤーを任されました。

「政治家たるものワインの知識を持ち合わせるべきだ」とも説き、積極的にワインレクチャーを行い自宅へ招いてはワインディナーを楽しんだと言います。

また外交のためホワイトハウスにワインセラーを構築し、シャンパン400本、ディケム360本、大量のラフィット、1798年産のマルゴーやローザンセグラ、その他高級ブルゴーニュなど様々な一流ワインを揃え、フランス仕込みのワインの知識とマナーをもって外交に臨みました。

大統領任期中は1万6500ドルという当時としては大きな額をワインに費やしたと記録されています。

ジェファーソンはアメリカ建国の父として有名ですが、またアメリカにワイン文化を伝えた「ワイン建国の父」としても有名な存在です。