繰り上げ受給は働き続けることとセット

繰り上げは1カ月単位でできますので、60歳から受け取るか65歳から受け取るかの二者択一ではなく、実際に60歳以降の暮らしを始めてみて、様子を見ながら、いつから受け取りを開始するか、柔軟に対応してもよいと思います。

繰り上げ受給のデメリットとしてよく言われるのが、ケガや病気で重い障害を負っても障害年金が受け取れないことです。しかし、厚生年金被保険者として働いていれば、障害年金を請求することは可能です(※5)。繰り上げ受給は働き続けることとセットだと思ってください。

また、繰り上げ受給をしている人が亡くなった場合、遺族に支給される遺族厚生年金は減額された年金額を基に計算されるのではなく、本来の年金額を基に計算されます。

遺族厚生年金とは、「厚生年金の被保険者である間に死亡したとき」などの要件に該当すれば、配偶者などに支給されるものです。支給額は死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。つまり、繰り上げにより減額された年金額ではなく、本来の年金額の4分の3が遺族に対して支給されるのです。

デメリットばかりが強調される繰り上げ受給ですが、メリットとデメリットは裏表です。80歳を超えて長生きした場合、65歳から受け取った場合の受取総額に追い越されてしまいますが、年金が支給されなくなるわけではありません。生きている限り受け取ることができます。一方、80歳までに亡くなってしまうことや、まったく年金を受け取ることなく亡くなってしまう可能性もあります。寿命が分からない以上、正解はありません。

※5 「事後重症請求」は繰り上げ後に申請することができない

繰り上げしないなら「66歳まで繰り下げる」と決める

「長寿家系だし、私は絶対長生きする」
「理屈抜きで、繰り上げ受給で年金が減額されるのはイヤ」
「とにかく年8.4%増のお得は手放したくない」

など、理由はさまざまでしょうが、繰り下げしたいと考える人は多いと思います。そういう人は、1年だけ繰り下げて66歳からの年金受給開始を目指しましょう。なぜなら、65歳から1年間は月単位で繰り下げることはできず、66歳まで待たなくてはならないからです。この1年間を年金なしで生活できるようにしておけば、それ以降は希望する月から受給を開始できます。

リタイアしたいと思っていても、1年くらいなら「がんばって働こうか」と思えるかもしれません。もし、65歳以降も厚生年金に加入しているなら、毎年10月に改定が行われ、それまでに納めた保険料が年金額に反映されます。