自称公務員の男性と6年の交際期間を経て結婚し、31歳で出産した女性。ワンオペ育児に追われるだけでなく、同居する65歳の義父からはモラハラを受け、義母からいびられた。そんな中、68歳の義母の行動に異変が。タンスの中には、尿を漏らした下着やズボンが入れられていた――(前編/全2回)。
おくるみに包まれた新生児
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この連載では、「ダブルケア」の事例を紹介していく。「ダブルケア」とは、子育てと介護が同時期に発生する状態をいう。子育てはその両親、介護はその親族が行うのが一般的だが、両方の負担がたった1人に集中していることが少なくない。そのたった1人の生活は、肉体的にも精神的にも過酷だ。しかもそれは、誰にでも起こり得ることである。取材事例を通じて、ダブルケアに備える方法や、乗り越えるヒントを探っていきたい。

今回は、6年の交際期間を経て結婚した相手はモラハラ夫だったという、30代女性の事例。夫が希望し、義両親も家事育児をサポートしてくれるとのことで2世帯同居を承諾したが、義父は酒乱、義母からは嫁いびりに遭い、家政婦扱い。やがて義母が認知症になると、ダブルケア状態に陥っていく。女性はどんな思いで介護に関わったのか――。

夫と義両親に違和感

関東地方在住の七瀬希子さん(仮名・30代・既婚)は、2歳下の弟とともに、運送業に従事する父親の男手ひとつで育てられた。両親は七瀬さんが物心付く前に離婚。父親は母親の話をすることはなく、成長過程で会うこともなかったため、七瀬さんに母親の記憶はまったくないという。

大学卒業後、金融系の企業に就職した七瀬さんは、23歳のときに友人から、公務員をしているという31歳の男性を紹介される。男性は包容力があり、七瀬さんの話によく耳を傾けてくれた。やがて男性からの告白により、2人は交際をスタート。お酒が好きな男性とのデートは、もっぱらお酒がおいしい飲食店巡りだった。

しばらくして男性の両親と会うことになったが、初顔合わせの食事会をした際、男性の両親は箸置きなど店のものを無断でポケットに入れて持ち帰っていたことが判明。帰宅後、男性が気づき、慌てて店に戻しに行ったが、七瀬さんは、「こんなことをする人がいるなんて……」と愕然とした。それが七瀬さんにとって、行くか戻るかを決める運命の分かれ道だったことは、このときは知る由もなかった。

2人は6年の交際を経て、七瀬さん29歳、夫37歳で結婚。

ところが結婚後、夫と2人でアパート暮らしを始めたが、なかなか子どもが授からない。実は七瀬さんは、結婚前から多嚢胞性卵巣症候群と診断されていた。多嚢胞性卵巣症候群は、卵胞の成⻑が途中で止まり、たくさんの⼩さな卵胞が、卵巣内にとどまってしまう病気だ。

そのため七瀬さんは、不妊治療を始めた。頻繁に通院しなければならないことや、仕事で受けるストレスなども妊娠の妨げになる可能性があることから、結婚して半年後、七瀬さんは治療に専念するため、仕事を辞めた。

それから約半年後に男の子を妊娠し、2017年9月に出産。七瀬さん31歳、夫39歳になっていた。夫は出産に立ち会い、第1子の誕生をとても喜んだ。

当時65歳の義父と68歳の義母は、七瀬さん夫婦の新居から車で10分ほどのところに住んでおり、七瀬さん夫婦が結婚してからというもの、毎週末アパートに遊びに来ていた。

驚くことに、どうやら夫は、平日も週に2回は仕事帰りに義実家へ寄っているらしく、帰宅が遅いことが頻繁にあった。義両親が来るときは、いつも食材やお菓子などを持って来てくれて助かっていたが、七瀬さんは、1日おきくらいに会っているにもかかわらず、お互いに近況報告をし合い、いちいち体調を心配し合う夫と義母の関係が気になっていた。

さらに不可解なことに、結婚後、七瀬さんが親戚の集まりに出るようになると、義親族たちが夫に、「○○(社名)は最近どうなんだ?」と話を振る。

「私にとってはそもそも、夫は公務員だと聞いていて、夫がその会社の社員だったなんて寝耳に水でした……。あとで夫に聞いてもはぐらかされて、あまり問い詰めるとキレるので、いまだに夫がどこの会社でどんな仕事をしているかわからないのです」

やがて、息子が1歳になるかならないかくらいの頃、夫が言った。

「俺の両親と同居しないか?」

聞けば義両親は、七瀬さん夫婦と同居するために、新居としてマンションを購入する予定だと言う。さらに夫は、「おふくろに家事や育児を手伝ってもらえるから、希子にとってもいい話だろ?」と推してくる。

昭和の価値観を引きずる義父からは、「年下だから」「女性だから」「嫁だから」と会うたびに見下されているような感覚があったが、これまで義母には優しく接してもらってきた七瀬さんは、「それなら……」と、OK。このとき地獄への第一歩を踏み出してしまったとは、当時の七瀬さんには知り得るはずもなかった。