20年前の屈辱を忘れない

またPOSシステムの導入も早かっただけでなく、常に新しい機能を盛り込むなど改良を加えてきた。在庫が少なくなると自動でメーカーに発注できる仕組みや、商品の売れ行き動向などを分析するデータを蓄積するなど、徹底的にロスをなくしていった。そうしたイノベーションの継続は、「今」につながっている。一宮氏は誇らしげに言うのである。

「現在、ヤマダ電機のすべての店員が情報の共有化を図るためPDAを持っています。この情報端末は、競合他社が同じ商品を何時何分に、いくらで販売しているかがリアルタイムでわかるだけでなく、在庫状況も正確に把握できるので、自分の店では欠品していても他店には在庫があります、といった情報をお客様にお伝えできるのです」

社員は一人残らず情報を共有し、スピード処理する。これが、できそうでできない。その証拠に、他の家電量販店では「全員PDA」は見られない。簡単に見えてそのシステムは、莫大な先行投資と長年の改良の歴史があってこそ構築できるもの。もっと言えば、あの営業赤字の辛酸を嘗めたからこそ、突き詰めてこられたものなのだ。

ローコスト経営のノウハウの積み重ねによって利益率は高まる。経費を抑えられるので安値で売れる。結果、大量にさばくことが可能となる。バブル直後、地に墜ちた北関東の雄は、90年代半ばの大店法改正という追い風にも乗り、全国に「ヤマダ城」を建て、ライバルを圧倒した。結局のところ、「数を売る」ことはメーカーとの商談における力関係にも有利に働き、さらなる仕入れ値の値下げ交渉にも成功しやすくなる。プラスがプラスを生み出す無限の利益循環。業績は上がり、客も満足した。