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ちょうど30年前、HISは海外格安航空券というニッチビジネスを始めた。

かつて「旅行業界の異端児」と恐れられた澤田秀雄氏(現会長)を含む社員二人のみのベンチャー中のベンチャー。当初、HIS「ひでぇ・インターナショナル・サービス」の略称だと陰口を叩かれていたのがウソのように04年には東証一部上場も果たし、信頼感も出てきた。売上高3000億円超の右肩上がりだ。

しかし、リスクはすぐそこにある。テロ、戦争、SARS、原油高騰、世界同時不況、新型インフルエンザ。何か起きれば即売り上げ減だ。03年には、イラク戦争とSARSの影響によって壊滅的な打撃を受け創業初の減収減益となった。

エイチアイエス営業販売グループ グループリーダー 宮本秀樹 みやもと・ひでき●1968年生まれ、93年入社。新入社員は格安航空券の取得から学ぶ。「ビーマンバングラディシュ航空でもなんでも使った。これがうちの強みになっている」という。

09年に海外渡航した日本人は1544万人。3年連続で前年を割った(日本政府観光局調べ)。旅行の需要は飽和状態であるうえに、さらなる先細り化も否めない。事実、現在、円高の追い風があるのに、「ソウル3日間1.68万円」という激安商品に対しても客の反応は鈍い。

HISは海外の格安券やパッケージ旅行のシェアは大きい一方、国内旅行の基盤が弱い。JTBなどが有力旅館やホテルと集客で協定を結ぶことで収入源を確保しているのに比べ、国内ツアーに組み込む宿泊先や観光施設も限られる。また研修や視察、社員旅行など「法人向け」は営業を開始して歴史が浅く(業界最後発)、大口の顧客を安定して獲得するには至っていない。

つまり、今はまだ成長曲線を描くHISだが、いつ衰退へと向かうとも限らない。転ばぬ先の杖はあるのか。販売グループリーダーの宮本秀樹氏はこう話す。

「確かに業界全体が低迷し、当社も以前のような二桁成長は難しい。でも、会長の澤田がいつも言うように『ピンチはチャンス』。閉塞的な環境の中でも新しいことにチャレンジしていきたい。今、販売チャンネルとして社内外で注目を集めているのが、目的型旅行に特化したトラベルワンダーランドのセクションです」

例えば、ホノルルなどでのマラソンツアーや、大リーグ観戦ツアーなどだ。サッカーなら、セリエAの有力カードを自分で選んだ座席で観戦できる商品。普通のイタリア旅行なら航空運賃とホテル代で7万~8万円だが、こちらは15万~16万円。単価が高くても、入手困難なプラチナチケット込みなど付加価値があれば買う客は潜在的に多い。