「JTBに追いつく」全社的な共通意識

エコツアーに特化したデスクでは、タイの山岳民族の子供たちと交流し、施設を補修、ホームステイする「ウルルン滞在記」のようなスタディツアーや、屋久島や小笠原でのトレッキングツアー、ジャングル探検ツアー、インドのマザーテレサ施設でのボランティア体験ツアーなどユニークな企画が目白押し。このデスクの担当所長・羽鳥弘晃氏は語る。

「ツアー料金の一部が現地活動に還元される仕組みのものもあって、高い商品では50万円程度のものもあります。いずれも広告などには載っていないにもかかわらず、『体験してみたい』という方から問い合わせが舞い込んでいます」

最近では、赤道直下のパプアニューギニアへのボランティアツアーなど、マニアックすぎて“お蔵入り”となった企画もあるが、今の時期なら前出のスタディツアーは大学生に就活対策としても大好評らしい。山岳民族との触れ合い、寝食をともにする特異な体験によって、自己PR力をアップさせる狙いだろうか。

ともあれ、「他社になくて当社にあるのは、そうした旅行者のニーズをキャッチし商品化する嗅覚や、国内281カ所、海外76カ所のワールドワイドなネットワーク」(宮本氏)。企画立案者は、航空券やホテルなどから直接仕入れて販売し、最後は現地で添乗まで務めることも少なくない。まだキャリアの浅い社員が数千万円のコストを要する、飛行機一機丸ごとチャーター調達の業務をこなすこともザラだ。利幅が大きいのに他社が追随できないのは、このインフラとマンパワーという土台がHISほどないからだろう。

この目的型旅行のセクションには、ほかに、「世界遺産/辺境・秘境デスク」「鉄道の旅専門デスク」「海外発券専門デスク」「家族旅行専門デスク」などがあり、まさに旅の総合デパートといえる。

もうひとつ、この会社の持つ強力な武器がコンサルティング営業力だ。GWなどは人気路線で直行便がとりづらい。あっても高額だ。通常ならここで諦める担当者も多い。だが、HISは違う。直行便に固執せず、柔軟な発想で、例えば成田からソウル経由でLA行きといった迂回ルートを探し出そうとする。「最近はケータイを含むオンラインでの航空券注文も急増していますが、こうした提案力は有人の窓口販売ならではです」(羽鳥氏)。

手間暇を惜しまない。だから、かゆいところに手が届き、無理が利く。そんなサービスがあったからこそ30年間、客を囲い込むことができたのだろう。パソコンに向かうフロア一面の社員を満足気に眺めながら、宮本氏はきっぱり言った。

「1000円、2000円の利益差で勝った負けたを決める時代は終わりました。もしそこで負けても大きく挽回できるビジネスを果敢に展開したい」

よもやの減収のときも、他社に先駆けてリカバリープランを発表し、V字回復を果たした。「雲の上の存在だったJTBの背中が見えてきた。(JTBを追いつき、追い抜くことは)全社的な共通意識としてひとつの目標だと思う」(羽鳥氏)。

※すべて雑誌掲載当時

(小原孝博=撮影)