社員を解雇せずに労働コストを下げた日本の特殊性
——そうした改革と賃金停滞との関係を説明してください。
1990年代にさかのぼると、日本政府は労働市場改革の下、(非正規雇用や、解雇を除く雇用調整などについて)企業のフレキシビリティーを高めました。その結果、企業は、社員をレイオフ(解雇)せずに労働コストを減らすという、日本独特のやり方による労働コスト削減の道を探ったのです。
これは短期的に見れば、そう悪くないアイデアでした。でも、長期的には非常に大きな弊害が生じたのです。企業が組織再編に当たって、(正社員の)賃金を抑え、派遣労働者を増やして正社員の割合を減らしたことは、変わりゆく経済に適応する一助になったかもしれません。でも、最終的にはマイナスの影響をもたらしたのです。
というのも、賃金抑制はマクロ経済の足かせになるからです。賃金が下がれば消費も陰り、経済成長も鈍化します。格差拡大は経済成長の足を引っ張るのです。これは米国人が学んだことであり、日本の人たちも認識し始めていると思います。何十年も前には、格差と経済成長はトレードオフ(二律背反・相反するもの)だという基本前提の下で、高成長には格差が必要コストだと考えられていました。
格差は成長どころか経済を鈍化させる
でも、私たち米国人が学んだことは、その逆でした。高レベルの格差は経済成長にとって必須のものなどではなく、成長をむしばむものだったのです。格差が大きくなれば消費も鈍化し、経済停滞を助長します。
——小泉純一郎元首相がさまざまな点で規制緩和を進めたことで、格差が拡大しました。つまり、日本経済にマイナスだったということですか。
一つひとつ政策を吟味しなければなりませんが、ひと言で言えば、「イエス」です。彼の政策が日本の長期的成長の礎を築いたとは思いません。それ以上のことは、各政策の詳細を見直さなければなりませんが。
格差拡大については、労働市場の規制緩和が1つの要因だと思います。ただ、それが唯一の要因ではありません。(高齢化という)人口統計上の変化や経済成長の鈍化もあります。しっかりした年金制度に守られた年長者と、そうでない若者など、別の形の格差もあるため、小泉元首相だけを非難するのは公正さに欠けます。