「先が読めるでしょ」と何万回も聞かれた
「そういえば、まだ2カ月だよな」
NECプロダクト資材部・電気部品統括部長の滝野秀樹(48歳)が改めて驚くのは、年明けに異動してきたばかりの若い部下のことだ。
同社の環境ビジネスの一つ、電気自動車(EV)向け急速充電器のプロジェクトに参画したその部下は、供給・製造元の設計者の信頼を得、役員相手にプレゼンもこなす。
「すでにリーダー格。仕事の理解が人並み以上に早いですね」(滝野)
真面目で気さく、付き合いもいい。そんな彼について滝野がちょっぴり気にかけていたのが、突出した実績を誇る彼の趣味――将棋だった。
アマチュア棋士としてアマ名人・竜王・王将等々、主要タイトルはすべて獲得。プロと戦っても引けを取らない“プロ殺し”、清水上徹(30歳)の名を知らぬ愛好家はいない。
「『そっちに移って弱くなったら、おまえの責任だ』と上に言われた」
と滝野は苦笑する。将棋とは無縁だけについ身構えたのも無理はないが、今はもう、材料調達のバイヤーとして話をまとめる調整力に太鼓判を押す。同僚の後藤純司(38歳)も、
「内にこもる人かと思ったら全然違いました。勝負にギラギラするところもまるでないし、取引先にも信頼されています」と言う。
ほんとにアマ日本一なの? という後藤の清水上評は、そのまま筆者の第一印象でもある。清潔なスーツ姿での応答は明るくスムーズだ。
「『仕事でも先が読めるんでしょ』と何万回も聞かれました(苦笑)。そのときは『将棋の駒は動き方が決まってますが、人や仕事は動きがわかりません』と言って納得してもらうんです。仕事で生きているのは、読みよりもむしろ辛抱強さ。仕事で結果が出ずに苦しいとき、クサらずに続けられるのは、将棋でも同じ思いを何度もしたから。将棋がなかったら……と怖くなることもあります」