スラムで暮らす子どもたちはどのような生活を送っているのか。家族でインドに引っ越した高校生の熊谷はるかさんは、学校のクラブ活動でスラムに住む同世代と交流するようになった。熊谷さんは「いつも笑っている彼女たちにある質問をすると、笑顔が消えてしまった」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、熊谷はるか『JK、インドで常識ぶっ壊される』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

陽気な笑顔の少女
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「数学がすごい」そんなインド人は実は一握り

放課後にスラムで暮らす子どもたちに会いにいく木曜日は、1週間でいちばん好きな曜日になった。芝生の広場に入っていくと、女の子たちはいつもすぐに駆け寄ってきて、わたしたちが学校に帰る時間になると、ギリギリまで手を握って、「また来週ね」と約束した。

芝生の広場で子どもたちと過ごす、1週間のうちのたったの1時間は、いつも濃かった。側転や倒立の競争をしたり、そこらへんにいた野良犬の赤ちゃんと遊んだり、ヒンディー語バージョンのハンカチ落としをしたり。ときには算数の宿題を手伝ったりもした。

10歳前後の彼ら彼女らがやっていた学校の算数のレベルは、日本の小学校ともたいして変わらなかった。逆に、わたしの学校にいるインド人の同級生、特に男子は、確かに理数系が凄まじくできるひとも多かった。そういう彼らは一様に、小さいころから塾に行ったり家庭教師がついていたりしていた。「インド人は数学がすごい」と言われるが、その「インド人」たちのなかの分断を浮かび上がらせるのもまた、数学だった。

次第に見えてきた子どもたちの真の姿

わたしたちが毎週訪れるこのスラムは、「サンジェイ・キャンプ」といい、2500世帯以上、人数にしておよそ1万人が暮らすという大規模なコミュニティで、やはりいくつもの大使館に囲まれたエリアに位置する。都市のど真ん中にある、アーバン・スラムと呼ばれるやつだ。

そもそも、この地域の子どもたちとうちの学校のサービスクラブに交流があるのには、クラブが連携している外部のNGOの背景があった。それは、あのマララさんと同時にノーベル平和賞を受賞した、インド人の人権活動家・カイラッシュ=サティヤルティ氏(Kailash Satyarthi)が設立したもの。その名もKailash Satyarthi Children’s Foundation(KSCF)といって、児童労働者の救出活動とともに、児童労働の撲滅や子どもの権利・教育の重要性などを訴える「子どものための」団体だ。

KSCFの取り組みのひとつが、チャイルドフレンドリーなコミュニティをつくるための、特に都市部にあるスラムに特化したプロジェクト。背景には、貧困や不十分な教育のために、家庭内や地域内で子どもがネグレクトされることが多いという問題がある。そうしてサポートを受けるコミュニティのひとつが、わたしたちが交流をおこなうサンジェイ・キャンプだったのだ。

こんな内容を並べたファクトシートを事前にもらって目を通してはいたものの、あんな明るい子どもたちの様子を一度知ったら、信じられなくなってしまうようなところがある。しかし、毎週交流を重ねていくなかでは、その真の姿も知らざるを得なかった。そもそも、わたしたちは「子どもの権利を訴える団体」なのだから、彼ら彼女らの権利が守られるようなアクションにつながらなければいけない。