子どもに薬物を売らないよう商店に署名してもらう
あるところで、隊列が止まった。売店があったのだ。これこそ今回の大事なミッション、子どもに薬物を売らないよう地域の店に直接訴えること。子どもたちの代表が今日の趣旨を店主に説明し、「子どもにドラッグや危険なサブスタンスは売らないこと」そして「子どもの権利を守ること」という署名をしてもらうのだ。なかには文字が書けない店主もいて、そういうときには子どもたちが名前を聞いて代わりに書く。
迷路のように不規則に編まれた家々の並びを奥へと入っていくと、なかには向かいの家同士の間隔が、ひとが一人ぎりぎり通れるくらいしかないこともあって、この地区に建てられるだけの家を詰め込んだんだろうな、というのがわかる。水やトイレだけではなく、スペースも取り合いのようだ。その細くてでこぼこな道を、また次の売店を目指して、進んでいく。
どこまでも遠いと思っていたスラムとつながった瞬間
子どもたちはみな、いきいきとしていた。目を輝かせ、確かな足取りで進み、力強くポスターを掲げる。自分たちの権利を守るんだ、自分たちのコミュニティをよくするんだ、という熱気が満ち満ちていた。
わたしはというと、どこかふわふわした気持ちだった。スローガンの合唱に煽られる興奮のせいもありつつ、同時に、自分がこんな場所でこんなことをしているというのが信じられなかった。学校に来るとき、モールに出かけるとき、マーケットに買い物に行くとき、そういう贅沢な場所や施設の近くにはいつも、こういうスラムがあった。そしていつも、こういうスラムを横目に車で通り過ぎ、そこに住むひとたちが建てた贅沢な施設で快適な時間を過ごしていた。
それがいまは、ここに住む子どもたちの手を握って、スラムのなかを歩き、声を張り上げている。いままでにないほど、エネルギーにあふれている。どこまでも遠いと思っていた場所と、ひとびとと、つながった。ほんとは自分が遠ざけていただけだったんだと気づきながら、絡まる電線の下をくぐった。