簡素だけどカラフルな家屋が並ぶ街道
みんなで作ったポスターを両手に握りしめ、ぞろぞろとスラムの入り口に立った。はじめて来たときに震え上がった、あの真っ黒なニワトリがまた見えた。近くでは、舌を出した野良犬が闊歩している。野良犬は、うちのまわりにいるセルーやロキとたいして変わらない。
「チャロ!(レッツゴー!)」
その声を合図にして、隊列は前へ進んだ。
「ナシャ・ムクティ! サンジェイ・キャンプ!(依存のないサンジェイ・キャンプを!)」
「Drug abuse, life abuse !(薬物の乱用は、命の乱用!)」
ヒンディー語と英語のスローガンを交互に唱える。列のすれすれをすり抜けていくバイクのエンジン音に負けじと、声を張り上げた。
同時に、子どもたちの暮らしが見えてきた。隙間をあけずに並ぶ家屋は、レンガを積み上げてできた四方の壁に、トタン板を乗っけただけの簡素なつくり。建物というよりかは小屋という大きさだが、それでも立派な家だ。背の低いほったて小屋の合間からは、夕方の空がよく見えた。家々の壁は、水色にラベンダーにエメラルドグリーンと色とりどりに塗られ、花や神様の絵やポップな文字が描かれている。そこに引かれた紐には、さまざまなテキスタイルのサリーなどの洗濯物がかかり、狭い空間に色と模様がぎっしりと詰め込まれた鮮やかな街道ができあがっていた。
その壁に、子どもたち20人以上の高い声が鳴り響いた。
声を張り上げる子どもたちを見た住人たちの反応
「ナシャ・ムクティ! サンジェイ・キャンプ!」
「Drug abuse, life abuse!」
それを聞き、夕食のしたくをしていた母親たちが、なんの騒ぎかと家から出てきた。声を張り上げる子どもたちの賑やかさを微笑ましく見る目もあれば、突然の異様な光景に困惑を見せる目もあった。
「ここがわたしの家だよ!」
ずっとわたしの隣にいた女の子が、ビビッドカラーに塗られた一軒を指さした。
「ちょっと待ってて!」
そう言って家に飛び込んでいった彼女は、出てくると小さな弟の手を引いて再び隊列に加わった。そうだ、彼女は毎日弟の世話をしていると言っていたんだ。わたしにとっては妹のような存在の彼女が、頼もしいお姉ちゃんになる姿を見た。
そうして、どこからか集まってきた子どもたちも加わって、隊列はさらに長く、スローガンを唱える声はさらに大きくなっていった。