人に厳しく、自分に甘くはないか?
だから私は、「監督はすべてにおいて選手に負けてはならない」と肝に銘じ、常に新しい知識や情報を収集し、バージョンアップに努めた。ミーティングでは新たに気づいたこと、考えたこと、仕入れたことを随所に織り込み、マイナーチェンジをくり返し、データも更新した。
後年、楽天の監督になったときはすでに70代だったが、私の姿勢は一貫していたつもりだ。積極的にコーチの意見を聞き、必要ならばどんどん取り入れた。自分がミスしたときは、非を認め、反省した。
リーダー自身が成長することこそ強い組織をつくる第一歩なのであるが、現実はどうか。プロ野球の世界であれ、そうでない世界であれ、人に厳しく、自分に甘いリーダーのほうが多いのではないか?
そういうリーダーのもとでは、フォロワーも同じ態度をとるようになり、当然、組織の力は弱まっていく。「人材がいない」「上の人間が理解してくれない」と嘆いたり、愚痴をこぼしたりする暇があったら、「自分自身を磨け」と私はいいたい。
ヤクルト時代に日本一を実現できた真因
ヤクルトの監督を務めた9年間、私はチームをリーグ優勝4回、日本一に3回導くことができた。これには、当時の球団社長だった相馬和夫さんの功績も非常に大きい。
当時のヤクルトは最下位が定位置といってもいいような弱小チームだった。相馬さんは、私の評論や解説を聞き、「ヤクルトを強くしてくれるのは野村しかいない」と考え、ヤクルトに縁もゆかりもない私に白羽の矢を立てたのだという。
そんな相馬さんに私は訊ねた。
「1年目は畑を耕し、2年目に種をまいて育てる。花が咲くのは早くても3年後。それまで待ってくれますか?」
相馬さんは笑っていった。
「あなたが監督をやったからといって、すぐに優勝できるとは思っていない。急がず、じっくりと選手を鍛えてください。5年後に優勝を争えるチームにしてくれればいい。そのために協力は惜しみません」