名将・野村克也氏の三回忌を追悼し、氏が晩年に語り残した金言をまとめたセブン‐イレブン限定書籍『人は変われる 「ほめる」「叱る」「ぼやく」野村再生工場の才能覚醒術』が発売された。自らを高めようと努力を続けるすべての人へ贈るラストメッセージより、その一部を特別公開する──。(第2回/全4回)

※本稿は、野村克也『人は変われる 「ほめる」「叱る」「ぼやく」野村再生工場の才能覚醒術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

野村克也
写真=時事通信フォト
2011年2月13日、野村克也 野球解説者、元プロ野球選手・監督(プロ野球・日本ハムキャンプで。沖縄・名護市)

叱ってこそ、人は育つ

最近のプロ野球の監督やコーチを見ていて、気になることがある。

「あまりに選手をほめすぎていないか?」

プロ野球にかぎらず、いまはまずほめることが奨励され、ほめて伸ばすという指導法が主流になっているようだ。しかし、私にはこれが疑問なのである。

「叱ってこそ、人は育つ」。私はそう信じ、叱って育てることを指導方針の基本に置いてきたからだ。なぜか──叱られた悔しさをバネに変えることを期待したからである。

高くジャンプするには、ひざをかがめて反動をつけなければならない。それと同じで、叱ることで選手の身体を押さえつけ、より強い反動をつけさせようとしたのである。

悔しさが「野球人・野村克也」を作った

これは、私自身の体験でもあった。南海ホークス時代に長く仕えた鶴岡一人監督は、めったに自軍の選手をほめなかった。

とりわけ私には厳しかった。「おまえは安物のピッチャーはよう打つが、一流は打てんのう」と、いつもケチョンケチョンにいわれた。

野村克也『人は変われる 「ほめる」「叱る」「ぼやく」野村再生工場の才能覚醒術』(プレジデント社)
野村克也『人は変われる 「ほめる」「叱る」「ぼやく」野村再生工場の才能覚醒術』(プレジデント社)

一方で鶴岡さんは、西鉄ライオンズの稲尾和久や中西太さんのようなライバルチームの選手を「あれがプロじゃ」と盛大に持ち上げ、「それに比べておまえは……」とこきおろした。三冠王になったときでさえ、ほめられるどころか、「何が三冠王じゃ!」と怒鳴られた。

正直、悔しかった。「こんちくしょう!」と思った。だが、私はそれを期待の裏返しだと考えた。そして、その悔しさを「いつか認めさせてやる!」とバネに変え、努力した。三冠王になったにもかかわらず怒鳴られたときも、「慢心するな」という意味だと受け止めた。

「これで満足することなく、さらに高みを目指せ」

そういっているのだと考え、努力を重ねた。そのくり返しが私を成長させたのは間違いない。