高卒ルーキーに打ち砕かれた未練
果たして松井は、そのストレートを火の出るような当たりでライトスタンドに運んだ。
自信のあるストレートを高卒ルーキーにものの見事に打ち砕かれたことで、「ストレートは通用しない」と高津は認めざるをえなかったはずだ。そのことをわからせるために、私はあえて被弾覚悟で内角のストレートで勝負させたのである。
人間は失敗してはじめて自分の間違いに気づく。
人を伸ばすために絶対に逃してはならないタイミング
気づく前に教えられても必要に迫られないから、真剣に聞く耳を持たないし、頭に入ってこない。自分でやってみて、失敗してようやく、自分のやり方や考え方は間違っていたのではないかと考えるわけだ。そして、そのときこそがコーチの出番。教えるべき最高のタイミングなのである。
自分の間違いに気づき、「なんとかしなければいけない」と思っているときは、向上心や知識欲が高まっている。ここにいたってようやく、教えることが意味を持つ。
選手がそういう状態になったときとはすなわち、アドバイスを受け入れる態勢が整っているときだ。選手は教えられたことをスポンジが水を吸い込むがごとく吸収する。指導者は、このタイミングを絶対に逃してはいけない。
高津がその後懸命にシンカーの習得に励み、日本を代表するストッパーとなったのはご承知のとおりである。