一昨年前に亡くなった野村克也監督の采配は「ID野球」という代名詞で呼ばれていた。教え子である千葉ロッテの吉井理人さんは「ID野球の意味を誤解している人が多い。野村監督はデータ通りに選手を動かそうとする監督ではなかった」という――。
※本稿は、吉井理人『最高のコーチは、教えない。』(ディスカバー携書)の一部を再編集したものです。
優秀な指導者はコミュニケーションがうまい
このコラムでは、僕がコーチングをするうえで影響を受けた指導者たちを紹介していく。
彼らに共通するのは、選手とのコミュニケーションの取り方がうまいという点だ。人によって方法は違うが、誰もが選手の心をつかんでいた。
コーチングをするうえで、コミュニケーションはもっとも重要なポイントになる。
結局、選手を第一に考え、選手のやる気を引き出すのも、コミュニケーションから始まる。
アドバイスに耳を傾けさせるにも、コミュニケーションがうまくいかないと選手は聞くための準備ができない。やり方を間違えると、選手はおかしな方向に進んでしまう。
人のタイプは千差万別だから、方法は一つではない。一人ひとりとうまくコミュニケーションを取り、自分の課題を自分でクリアしていく思考方法に導くに当たり、ここで紹介する監督たちのコミュニケーション術を、参考にしてみてほしい。
はじめは「面倒くさいおっさん」の意図がわからなかった
1995年春、キャンプが終わって開幕までの間に、トレードによって近鉄からヤクルトスワローズに移籍した。当時のヤクルトの監督は野村克也さんだ。
野村さんのイメージは「面倒くさいおっさん」だった。失敗してはボヤかれ、イライラが募った。