試合前、試合後に行われたミーティングでは、いつもこう言っていた。
「データ通りに投げろと言ってるわけやない。ピンチになって頭の中がパニックになったときに『俺はこのピンチの対処法を知っとる。だから大丈夫や』という材料に使ってくれたらええんや」
ピンチのときにこそ客観的なデータが役に立つ
いくらプロ野球選手でも、データ通りには投げられない。まずは自分の得意な球、強みの球を投げて抑えたほうが、本人の調子も上がっていく。
ただ、ピンチはどんな投手にも訪れる。そのとき、ピンチを切り抜ける手段を知らずにマウンドに立つと、何を投げても打たれるのではないかとネガティブな発想に襲われ、不安は増幅する。
このとき、データに裏打ちされた相手バッターの弱点を知っていれば、いざとなれば相手の苦手な球種を苦手なコースに投げればいい。そのために、闇雲に集めたデータではなく、整理し、分析された根拠のあるデータを頭に入れておこうという趣旨だ。
「まずは投げたいボールを投げさせてあげなさい」
この点について、勘違いしているキャッチャーやバッテリーコーチがいる。かつて、ピッチャーがお山の大将だった時代がある。古き良きプロ野球黄金時代は、豪快で癖のあるピッチャーが、力でねじ伏せる投球でバッターをキリキリ舞いさせた。
ところが、最近はキャッチャーがお山の大将になっている。俺のサイン通りに投げればいいんだと言わんばかりの振る舞いをする選手も、なかにはいる。そうは言っても、ピッチャーがキャッチャーの要求通りにボールを投げられるわけがない。
その点に関して、野村監督はいつもこう言っていた。「イニングや得点の状況などによっては、チームの要求通り投げさせなあかんケースもある。でもまずは、ピッチャーが投げたいボールを投げさせてあげなさい」