みんなが「ID野球」を勘違いしている
野村監督の「ID野球」が一人歩きして、みんなが勘違いしている。キャッチャーがピッチャーにデータ通り投げさせる風潮は、どうにかして変えたいと思っている。
たとえば、ストレートにめっぽう強いバッターに対して、キャッチャーが「初球は変化球のボール球から入るのが常道」というサインを出し、ピッチャーは要求通りボール球を投げる。
カウントはワンボール・ノーストライク。データでは、バッターは依然としてストレートを狙ってくるはずだ。そこで、次の球も変化球をコーナーギリギリに投げろというサインを出し、ピッチャーは際どいコースを狙って投げる。だが、ボールを宣告される。
ツーボール・ノーストライク、次にボール球を投げたらピッチャーは追い込まれる。ストライクを取りにいくしかない。変化球より、ストレートの真っすぐのほうがストライクが取れる。キャッチャーは念のためコーナーギリギリに投げるようサインを出すが、要求通り投げることができず、ど真ん中に投げられたストレートを打たれてしまう。
バッターを抑えるための「ID野球」なのに、逆にピッチャーを苦しめている。こういうケースが多く見られるので、野村監督が真に意図した「ID野球」を、正確に理解する必要があると思っているのだ。
「最後はわしがいるんやから、好きにせえ」
野村監督は、配球には三つのパターンがあると言っていた。「ピッチャー優先」「データ優先」「シチュエーション優先」
今は、いの一番に優先されるべき「ピッチャー優先」が抜けている。野村監督は、どうしてもデータ通りに投げてほしいときは「俺がすべての責任を取る」と明言した。
野村監督は、一般的なイメージではトップダウンのリーダーのように見える。だが、実態はボトムアップを大事にする監督に見えた。
「最後はわしがいるんやから、好きにせえ」この「好きにせえ」は、野村監督をよく言い表している。野村監督のもとでプレーをした選手は、ほとんどの人が野村監督に心酔する。それは、選手として自分が思うようにやらせてもらえるからだと思う。