部下を動かすために上司はどんな言葉を発すればいいのか。プロ野球の千葉ロッテ監督・吉井理人さんは「選手自身に気づいてもらうために、あえて抽象的な表現で助言し、課題克服の方法を自分で具体化してほしいと考えている」という――。

※本稿は、吉井理人『機嫌のいいチームをつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

千葉ロッテマリーンズ監督の吉井理人氏
千葉ロッテマリーンズ監督の吉井理人氏

選手の心に火をつける言葉

主体性を持って的確な準備ができるように仕向けるため、私はさまざまな言葉を選手に投げかけている。その言葉によって選手の思考を導き出し、言語化させ、さらに思考を深めてもらいたいからだ。その積み重ねによって主体性が磨かれ、野球選手としての能力が向上するばかりか、社会人力や人間力も高められると期待している。

本や映画、漫画やドラマを見て、使える言葉を拾い集めている。いつか使えるだろうと思って、心のメモに書き留めておく。

たとえば、1921年に「理論物理への貢献、とくに光電効果の法則の発見」でノーベル物理学賞を受賞したアルベルト・アインシュタインの言葉だ。

「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションのことを言う」
「何かを学ぶのに、自分自身で経験する以上に良い方法はない」
「間違いを犯したことのない人とは、何も新しいことをしていない人だ」

これらの言葉に出会ったのは、中学生のころだったと思う。理科が好きだった私は、アインシュタインに憧れるとともに、彼の発した言葉が心に引っかかった。

2023年1月31日、春季キャンプを前にした全体ミーティングで、私はこの言葉を選手たちに伝えた。野球界の常識にとらわれず、さまざまなことを考え、失敗を恐れずに自らチャレンジしてほしいという意味を込めたつもりだった。

マリーンズではこれまで、監督がペップトーク(試合前に選手を励ますための短い激励スピーチ)をするミーティングをあまり行わなかったようだ。そもそも、日本のプロ野球では監督が選手たちを集めて毎日ミーティングをする習慣はあまり聞かない。私は、区切りのポイント、負けが混み出したときなどにモチベーションを高めるミーティングを行った。すると、選手は忘れていたものに気づいたり、刺激を受けたり、諦めそうな気持ちが奮い立ったりして、動きが変わった。