説明を聞く側の記憶に残る項目数

また、大抵の物事は三つの異なる切り口を示せば立体的に表現することができます。

このため、説明ペーパーはできるだけ少なく、可能なら1枚紙で、構成は「課題・検討・結論」の3項目、検討する際の論点や切り口も三つ、さらには結論を絞り込む際の選択肢も両極と中間の三つの案に集約するよう努力しました。

「3の字固め」にこだわった理由の一つは、それまでの経験上、説明を聞く側の記憶に残るのは3項目くらいが限度だと感じていたからです。

そのくらいコンパクトに整理し切れない案件は、多忙な上司の判断を仰いだり、国会議員に説明したりするところまで成熟していないのではないかとすら感じます。

もちろん、役人の世界で言う「詰まった」政策を作るためには、たっぷりとブレーンストーミング等を行い、考え得る限りの論点を網羅して徹底的に検討しなければなりません。そうした基礎作業に用いるペーパーが詳細で大部のものになるのは仕方ありません。

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1枚の紙に3つの構成で書くのがベスト

政策の立案過程ではとことん細部まで検討し、出来上がった政策案については簡潔な資料を用いて説明するというのが理想です。

また、簡潔に説明することは、都合の悪い論点を隠すことでもありません。上司に判断を求めたり部外者に理解を求めたりする際には、その政策のメリット、デメリットをフェアに説明すべきことは当然です。

同様に、簡潔な説明を心がけるとしても、相手の疑問に対しては懇切丁寧に答える必要があります。

簡潔な1枚ペーパーで説明しながら、流れや質問に応じてデータなどのバックアップ資料をタイムリーな形で追加的に示していく、というのが望ましいやり方だと思います。

要するに「3の字固め」とは、膨大な思考過程と検討事項を「3段階のプロセス」「3つの論点」「3つの切り口」「3つの選択肢」など「3」を目安としながら整理・集約し、重要な論点とその対応策を手際よく提示していくという技なのです。

もちろん、「3」はあくまでも目安です。現実の課題に即して、いずれかの要素が4になってもペーパーが2枚になっても、論点の整理・集約と簡潔な提示ができていればOKです。

簡潔な資料で問題ないとわかった

私が内閣官房安危室の参事官だった2005年頃に、インド洋での補給支援活動の根拠となっていたテロ対策特措法の期限延長法案を国会に提出しました。

内閣官房、防衛庁、外務省の三者が関係する法案だったので共通の説明資料を作って関係議員に根回ししようとしたのですが、資料がなかなか整いません。

国際情勢や派遣の経緯、活動の実績などを盛り込んだ長文の詳しい説明資料を作ろうとする防衛庁と、「3の字固め」で簡潔な資料を用意しようとする私の意見が合わなかったからです。

法案の根回しは、与党の部会にいつも顔を出しているような防衛問題に詳しい議員の先生ばかりが対象ではありません。

党幹部や国対関係の先生方などたくさんの議員の間を短時間で回らなければならないのです。そういった多くの忙しい先生方の間を研究論文のような長文の説明資料を抱えて回るということが、どうしてもイメージできませんでした。

このため、決して望ましいことではないのですが、資料の統一を放棄して別々の資料を用いました。実際に根回しをやってみたところ、簡潔な資料で全く不都合は生じなかったのでとても意を強くしました。