数多くの女性と生涯を通じて浮名を流した、イタリアの作家・カサノヴァ。評論家の長山靖生氏は「カサノヴァほど幸福な人生はない」という。その知られざる生涯を紹介しよう――。
※本稿は、長山靖生『独身偉人伝』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
モテすぎて一人に絞り切れず、生涯独身
モテる男といえば、誰もが思い出すカサノヴァもドン・ファンも、実はどちらも生涯独身です。モテてモテて、一人に絞ることなどできないという、羨ましいというか、「体力あるなあ」的な人生がここにあります。
ただしドン・ファンは光源氏同様、実はフィクション上の存在。伝説によると貴族ドン・ファン(ドン・ジョヴァンニ)は騎士長の娘を誘惑し、咎めたその父を殺害。復讐を怖れて逃亡したものの、その後も悪さを続け、遂に娘の父の亡霊に捕らえられて地獄に引きずり込まれたとされています。
モーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』、バイロンの叙事詩『ドン・ジュアン』、リヒャルト・シュトラウスの交響詩『ドン・ファン』など、多くの作品に描かれているのは、それだけ人々の関心を引き付ける(心当たりがあるのか、魅了されるのか、羨ましいのか)物語なのでしょう。
一方、カサノヴァは実在の人物で、関係を持った女性は生涯に1000人を数えると言われています。もっとも、これは自伝『我が生涯の物語』(『カザノヴァ回想録』)に基づいた話なので、多少話を盛っている可能性はあります。しかしモテたのは事実で、多くの浮名を流しました。