天気予報を信じて出社したら、あいにくの雨。会社の傘立てにあった傘を無断で借りて近所のコンビニまで出かけたが、ひょっとしてこれは傘泥棒?
一般的には、傘を短時間借りた程度で罪に問われることは少ない。しかし、法的にシロかといえば、そうともいい切れない。他人のものを無断で一時使用することを「使用窃盗」というが、これが窃盗罪にあたるかどうかは、ケースバイケースだ。
では、窃盗として罪に問われるケースと、罪にならないケースとの境目はどこなのか。佃克彦弁護士は、「明確な切り分けは難しい」と指摘する。
「どこから窃盗とするのかは価値判断の問題で、ある意味では感覚的といってもいい。ただ、感覚で判断するというと身も蓋もないので、一応はメルクマール(指標)があって、理論的な説明ができるようになっています」
使用窃盗を無罪とする代表的な理論は2つある。まず「不法領得の意思がないため窃盗罪は成立しない」というもの。不法領得の意思とは、権利者を排除して自分の所有物のように振る舞う意思をいい、窃盗罪の構成要件の1つになっている。傘を一時的に借りる程度では所有者として振る舞ったと見なされず、窃盗罪の要件は満たさないというわけだ。
もう1つは、「可罰的違法性はない」というもの。ひらたくいえば、違法性はあるが罰するほど悪質ではないという理論だ。
「これらは理論上の話。どこから不法領得の意思があるとするのか、あるいはどこから罰すべきなのかと突き詰めると、結局、裁判所の価値判断に頼らざるをえないでしょう」(佃弁護士)