では、どのような条件が価値判断を左右するのか。判断材料の1つが、ものの財産的価値だ。たとえば一時的に借りるだけでも、傘とダイヤモンドではワケが違う。窃盗が疑われやすいのは当然、高価なもののほうだ。
「同じ傘でもビニール傘とブランド傘では価値が違います。2種類あって、あえて高級なほうを選んで持っていったとすると、不法領得の意思があったとみなされるかもしれません」(同)
時間の長さも重要だ。近所のコンビニまでの往復数分なら、一時的に借りたという主張も説得力を持つだろう。しかし、翌日返すつもりで自宅に持ち帰れば説得力も弱くなる。他の状況と複合的に考える必要はあるが、「自動車を4時間借りて有罪になった判例がある」(同)ので、数時間以上は危険水域と考えてよさそうだ。
借りる相手も無関係ではない。持ち主が誰なのか知らない状態で借りれば、返すつもりだったという意思が疑われる。同じ傘でも、知人のものを借りたほうがセーフになりやすい。
傘に限れば、雨が降っているときは注意したい。天気が悪いときは、所有者もその傘を必要としている蓋然性が高い。それを認識しつつ無断で借用すれば、所有者の権利を排除する意思があった、つまり不法領得の意思があったと判断されて窃盗罪が成立する恐れもある。もちろん雨降りでも、傘の持ち主が仕事中や外出中で、直ちに傘を必要としていないことがわかっていれば、そうした心配は無用だ。
返却する意思があるかどうかは、このようにさまざまな外形的事実で判断される。ただ、神経質に考える必要はないようだ。
「判断が分かれる微妙な使用窃盗では、被害者自身が問題視しないケースが多く、単独では事件化されません。実務上問題になるとしたら、職務質問などで怪しい人物を別件逮捕するケースくらいでしょう」(同)
もちろん事件化されないからといって人の傘を勝手に借りていいわけではない。いざというときも濡れて帰るくらいのモラルを持ちたいものだ。