親譲りの引っ込み思案で子供のときから損ばかりしている。

上司からダメ出しされても反論できない。同僚と一緒に仕事をすると、いつの間にか上下関係になっている。

性格だから仕方ないと思ってきた。だけど最近は「このままじゃまずい」と感じ始めている。とくに危機感が募ってきたのが恋愛方面だ。さすがに恋愛経験ゼロではないが、今までは「100%大丈夫」との確信がないと告白できなかった。

いつまでもこんな人生でいいのか? やっぱり仕事でもプライベートでも、積極的に変わらないとダメなんじゃないか? そんな一心でこの体験企画を提案したら、デスクはあっさりOKしてくれた。

鎌倉の名刹、建長寺では一般向けの宿泊坐禅会を開催している。期間は1泊2日。禅僧の修行を疑似体験できるこの坐禅会にまずはチャレンジだ。

建長寺 教学部長 永井宗直●毎年6月と12月に行う1泊2日の宿泊坐禅会を取りしきる。「坐禅は自分と向き合えます」

参加者は老若男女、約50人。期間中は私語厳禁で、作法も厳粛に守らねばならない。一通り説明を受けた後、本堂で1回目の坐禅に入った。片足だけを腿にのせる半跏趺坐(はんかふざ)という形で座り、視線を1メートルほど前に落とし呼吸に集中する。

和尚さんからはそう指示されたのだが、そう簡単には集中などできない。そういえばコンタクト忘れちゃったなぁ。取材依頼の返事が来るはずだけど、ここ携帯が圏外なんだよなぁ……。いろんなことが頭をよぎるうち、眠気に襲われ頭がぐらっとしたそのときだった。

「キエェーイッ!!」

和尚さんの強く鋭い気合が境内に響き渡り、いったん座を解かれた。

「皆さん、何しにここへ来たんですか。まだ5分しかたっていませんよ。真剣に自分と向き合わなければ、ここにいる意味がありません」

ああ、誰とは言わなかったけど、僕のことだよなあ……。改めて坐禅を組み直すと、時間がめちゃくちゃ長く感じられた。坐禅を組んでいる間、何をどうすればいいのかがよくわからない。