しばらくすると、和尚さんが警策を持ってゆっくり歩き始めた。警策とは修行者を打つ棒のこと。修行者が自ら望む場合、和尚に合掌して合図すれば警策を打ってもらうことができるという。ここはやっぱり、誌面的にも最初に僕が受けるべきか。でも、どの程度の強さで叩かれるんだろう。でも、ちょっと怖いな。様子を見てからにするか……。
僕の前を和尚さんが通り過ぎると、隣で坐禅を組んでいるカメラマンさんの前で止まった。率先して合掌し、警策を受けにいったのだ! ビシッという音とともに、これはマズいと心底思った。性格を積極的に変える企画なのに、行動は相変わらず引っ込み思案のままじゃないか! 形だけは坐禅を組んでいるけれど、心の中は焦りまくり、ますます時間が長く感じられた。
坐禅の後は夕食である。食べ方にも作法があり、まず、音を立ててはいけない。箸やお椀を置く音もダメ。食べるときは必ずお椀を持つ等々、いろいろ約束事があって、参加者には僕を含めまごついている人が多かった。
「真剣にご飯を食べなさい。ご飯も、お経を読むのも、恥ずかしさを取り払って本気で取り組みなさい。ただ時間をやり過ごすのではいけません」
僕たちを見かねてか、和尚さんはそんな話をしてくれた。それは今の僕に一番足りないことかもしれない。やるべきことがあっても、恥ずかしがってやらなかったり、腰が引けたりしてしまう。そこを打ち破らなければいけない、と思った。
新たな決意をして、夕食後の坐禅に臨んだ。夜のお堂は冷え込みが厳しい。慣れない姿勢をずっと取っているせいか、膝の後ろがピクピクしてきた。このままでは足がつってしまう。少し姿勢を変えようとしたそのときだった。
「動くなっ!」
和尚さんの鋭い叱責が飛んできた……。ああ、簡単に自分は変えられないなあ。
※すべて雑誌掲載当時