「勝負あった」というところか。
小沢一郎・民主党元代表の政治資金規正法違反事件訴訟で、“小沢無罪”が濃厚になってきた。
小沢被告は、自らが代表を務める政治資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡り、元秘書の石川知裕衆院議員らと共謀して政治資金収支報告書に虚偽の記載をしたとして公判中の身。
別途起訴された石川被告ら元秘書3人が東京地裁(登石郁朗裁判長)で有罪判決を受け、政界では小沢被告についても有罪を予想する声が出ていたが、検察側の失態で形勢が完全に逆転したのだ。
当初、小沢被告は窮地に立った。石川被告が東京地検特捜部の田代政弘検事の取り調べに対し、小沢被告との共謀を認める供述調書に署名、押印していたのだ。
例えば、石川被告の調書には、
「民主党の代表選挙前に本件土地取得の事実や、その原資が小沢さんからの借り入れであることが、公表された2004年分収支報告書に記載されれば、資金管理団体での土地取引やその原資の不透明さが報道されるなどして小沢さんに不利に働きかねず、それらの記載の公表をできるだけ後回しにしたかった」
「04年10月29日の数日前、小沢さんがチュリス赤坂に立ち寄った際、小沢さんに『先生からの4億円が表に出ないように、深沢八丁目の土地について、銀行からの借り入れで決済したという外形を整えたいので、陸山会が先生経由でりそな銀行から4億円の借り入れをしたいのですが。陸山会名義で定期預金を組み、それを担保として融資を受けたいと思います』などと言って了承を得た」
と記されている。もしこれが証拠採用されると小沢被告の有罪の公算が高まる。つまり、石川調書の証拠採否が小沢裁判の最大の争点になっていた。が、12月15日の小沢公判で検察側の失態が暴かれたことで証拠採用は難しくなった。
この日、証人として出廷したのは石川被告を取り調べた田代検事。周知のように田代氏は、10年5月17日に、保釈中の石川被告を再聴取した模様を石川被告に隠し録音されている。
録音した内容の反訳書には「ここは恐ろしい組織なんだから、何するかわかんないんだぞって、諭してくれたことあったじゃないですか」と石川被告が話し、田代氏が「うん、うん」と答えている場面や、過去の供述の訂正を求める石川被告に「面倒臭いからさあ」と田代氏が供述の維持を求める場面が記されていた。
このため石川元秘書らの裁判で登石裁判長は“検事が取り調べにおいて、被疑者に対する威迫とも言うべき強い心理的圧迫を与えていた”と認定、石川調書の大半の証拠採用を却下した。
「記憶が混同した」検事の苦しい釈明
それでも石川被告らが有罪になったのは、報告書の虚偽記載が外形的に明らかだったし、元秘書裁判で4億円の原資の一部と認定された水谷建設の裏金について元社長らが法廷で詳細な証言をしたから。だが、小沢裁判では、石川被告らと小沢被告の共謀を示す直接証拠は事実上、石川調書だけ。「逆に言えば石川調書の証拠採用を阻めば小沢被告は無罪を勝ち取ったも同然。そこで弁護側は田代検事を厳しく追及したのです」(傍聴した全国紙司法担当記者)。
弁護側の隠し玉は田代氏が上司に提出した捜査報告書だった。石川被告の再聴取の模様を書いた田代氏の捜査報告書に“捏造”が見つかったのだ。「11万人以上の有権者に選ばれた国会議員が、やくざの手下が親分を守るような嘘をついてはいけないと(田代検事に)言われたのが効いた」。田代氏は、石川被告が小沢被告の関与を認め、そう供述したと記したが、隠し録音の反訳書にこのやりとりがまったくなかったのだ。
「虚偽の報告書を作ったのでは、と追及された田代検事は“思い出しながら作成したので記憶が混同した”などと苦しい釈明をしたが説得力はなかった。しかも、この報告書をもとに東京第五検察審査会は小沢被告に起訴相当議決を出しており影響は重大。報告書で“捏造”した以上、調書でも同じことをした可能性は否定できず石川調書の証拠採用は難しくなったと言わざるをえない」(別の司法記者)
また翌日、小沢裁判の証人に立った前田恒彦元検事(別の裁判で証拠を捏造し服役中)が「検察は自分たちに不利になる証拠を隠した」と証言したことも小沢被告にとって追い風になった。
新党旗揚げ、「大阪維新の会」との連携による復活が噂される小沢元代表。宿敵・検察が小沢被告を救うという皮肉な結果になるのだろうか。
※すべて雑誌掲載当時