「死刑になりたい」と人を殺そうとする人々が飲んでいた共通の薬とは

いわゆる拡大自殺はアメリカでは1990年代以降、日本では2000年代以降、問題になっている。アメリカでは、銃を乱射して、警官に射殺されて死のうとする。別名「スーサイドバイコップ(suicide by cop)=警察による自殺」と呼ばれるもので、大事件を起こして警察に射殺してもらって自殺を果たすというものだ。

日本でも死刑になりたいと大事件を起こすケースが少なくない。

2001年の附属池田小事件(※1)、2008年の秋葉原通り魔事件(※2)などがそれにあたる。世の中を騒がせて死刑になろうとするという点では、1999年の全日空61便ハイジャック事件(※3)もこれに当たるかもしれない。

※1:2001年6月8日、大阪府池田市の大阪教育大学附属池田小学校で発生した無差別殺傷事件(児童8人死亡、児童13人および教職員2人の15人負傷)。
※2:2008年6月8日に東京都千代田区外神田(秋葉原)で発生した通り魔殺傷事件(7人死亡、10人重軽傷)。
※3:1999年7月23日に発生した羽田発札幌行きの飛行機がハイジャックされた事件(機長が死亡)。

問題は、これらの事件の加害者の共通点は、すべてSSRIというカテゴリーの抗うつ剤を服用していると言われている人たちということだ。参考文献『治す! うつ病、最新治療 ──薬づけからの脱却』(リーダーズノート編著)

SSRIはシナプス内のセロトニンだけを選択的に増やすという種類のうつ病の薬で、余計な伝達物質を増やさず、作用がシナプスの中でだけ起こる。これまでの抗うつ剤のような副作用も起こさないドリーム・ドラッグと言われていたものだ。

しかし、シナプスの中である伝達物質が急に増えるというのは、覚せい剤と似た作用ともいえる。

こうした薬は、確かにこれまでより有効性が高く副作用も少ないが、たとえば自殺念慮のある患者が、生きる意欲を取り戻すのではなく、自殺を決行させる頻度が高まることが問題視されている。

人の心にある陰と陽と重なっている部分のイラスト
写真=iStock.com/Eva Almqvist
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欧米では、イギリスのバンガー大学の精神医学教授デイビッド・ヒーリーのように、製薬会社などからかなりの圧力を受けながらそれに闘う医師がいるが、残念ながら、日本ではヒーリーの著作訳者の田島治先生などごく少数の医師しかSSRIの危険性を訴える人はいない。

コラムニストの神足裕司氏もこの問題に取り組んでいて、私も取材を受けたことがあるが、そのリポートが世に出る前にくも膜下出血で倒れてしまった。

いずれにせよ、この薬の認可以来、前述のようにこの薬を服用した人の異常な犯罪が続いているが、メディアは積極的に取り上げようとしない。

前述の全日空ハイジャック事件だけが裁判で薬の影響が認定されて無期懲役になったが、それさえもろくに報じられていないように感じる。今回の電車内で起きた事件でも「飲んでいた薬」に関してはメディアで特に問題にされず、容疑者の心理分析とか模倣犯のようなものばかりに着目している。

もちろん、すべてが薬のせいとは言えないだろうが、ある種の意識変容が起こる可能性は否定できず、こうした事件が起こった際に、飲んでいた薬の確認は必要だろう。

それがわかれば多少なりとも再発予防になる(医師の側も、投与に慎重になる)だろうし、加害者への怒りも少しは和らぐだろうし、それ以上に被害者への補償の芽も出てくる。

こんなに過去事例があるのに、それが検討されないのはメディア側の不勉強ともいえるが、ひょっとしたら、このような抗うつ剤を作っている製薬会社はメディアにとって大スポンサーで忖度そんたくしているのかもしれない。そんな疑いを持つほど、薬に関して触れないのだ。