総裁選のさなかのどさくさ紛れに「安倍人脈」が警察庁長官に
4候補による自民党総裁選挙のデッドヒートのさなか、日本国民の安全にかかわる人事が行われた。9月22日、中村格氏(58)が警察トップ・警察庁長官に就任したのである。しかし、メディアの注目度は恐ろしく低く、私は強い危機感を覚えている。
ジャーナリストの伊藤詩織さん(32)が、2015年4月に安倍晋三前総理と交流のある元TBSワシントン支局長の山口敬之氏(55)から性的暴行を受けたとして被害届を出した際、警視庁は準強姦容疑で逮捕状を取ったが、同庁刑事部長(当時)だった中村氏の指示で逮捕状の執行を見送ったとされる。
結果的に、東京地検が不起訴にしたが、2019年12月、東京地裁の民事裁判では「酩酊状態で意識のない伊藤氏に対し、合意がないまま性行為に及んだ」と認められている。民事でレイプと認定されるような事件を、刑事では検察が裁判にすらしない。ひとりの女性にたいする人権蹂躙を放置する姿勢を世界中のメディアが批判したのは当然のことだろう。
警視庁捜査2課長など刑事部門での経験が長く、官房長官の秘書官を務めた経験もある中村氏がいずれ警察トップに就任することを多くの識者が予測していた。私もそのひとりだ。ただ、まだ58歳であり、秋の総選挙を終え、政権(人事権)は自民党にあることを国民が承認してから、この人事が遂行されるものと考えていた。
ところが、堂々と総裁選のドタバタに乗じる形で自民党・政府は彼を就任させたことにはまったくもって開いた口が塞がらない。要するに大して総選挙に影響しないと判断したのだろう。
近年、公文書の改ざんなどの政権に阿る形の不祥事が相次いでいるが、これは内閣人事局が人事を握っていることが影響している。官僚たちには、たとえ不正をしてでも、時の権力者に気に入られたほうが得をするという心理がまん延しているのだ。
実際、森友問題で公文書改ざん(※)を指示したとされた佐川宣寿財務省理財局長は、疑惑の真っ最中(2017年5月)に国税庁長官に就任した(2018年3月辞職)。
※財務省近畿財務局が、安倍晋三前首相の妻昭恵氏が名誉校長だった小学校の開校を目指す森友学園に、鑑定価格から大幅に値引きして国有地を売却したことに関する決裁文書の中から、昭恵氏らの名前を削除するなど14件の文書を改ざん。
今回再び、時の政権が気に入る行動をとった人間が結局、警察のトップに立ったことで、今後も官僚のモラルハザードは止まりそうもない。公文書改ざんについては、処分を受け辞職につながったが、政権につながる人の逮捕状(これは裁判所が出す)のほうは執行を見送ったり、その後も起訴しないほうが出世につながる印象を与えたからだ。