小山田圭吾氏の顔をテレビで見るとPTSDが悪化する人がいる
コロナ禍で開催に反対する意見が根強いなかスタートした東京オリンピック。開会式直前には重要メンバーの辞任が相次ぐ前代未聞の事態となった。
小山田圭吾氏(52)は過去の障害者の同級生に対するいじめ告白が表面化していたにもかかわらず、開会式の冒頭部分の作曲担当になったことが問題視された。
その後、オリンピック・パラリンピックの文化プログラム「MAZEKOZEアイランドツアー」に出演していた、絵本作家ののぶみ氏(43)は自伝で学生時代に教師に腐った牛乳を飲ませたと書いていることが明るみになり辞任。
さらに開会式と閉会式のショーディレクターを務める小林賢太郎氏(48)がナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺を揶揄するセリフを使用していたとして、開会式の前日の22日に解任された。
ネット上では、オリンピックの組織委員会の不手際や該当者の言動への批判が今も続いているが、一部には別の声もある。それは、「過去の発言でここまでの断罪が必要なのか」というものだ。「せっかく更生しているのに」という同情の声だろう。
これまで本欄では、本来頭のいい人が、頭が悪いと言われても仕方がないような言動をしてしまう現象の背景を精神科医の立場で述べてきた。基本的な姿勢としては「罪を憎んで、人を憎まず」である。
しかし、その一方で精神科医として私が常に重視しているのは「トラウマ」の問題だ。たとえば、10代の頃にいじめやレイプを受けて、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になり、20代以降も苦しむ人がいるとしよう。
元加害者を人前に出すことで傷つく被害者たちがいる
PTSDの重要な症状のひとつに、フラッシュバックや悪夢がある。
仕事中や運転中に、突然トラウマを受けた現場の映像などが鮮明によみがえってきて精神的な不快感や不安定をもたらすのがフラッシュバックだ。あるいは、その場面の悪夢を繰り返して見るために不眠に苦しむ人もいる。
フラッシュバックや悪夢は、日常生活上でトラウマ現場を想起させる状況・映像によって誘発されるものだ。たとえば、津波で目の前で家族が亡くなった人の場合、津波の映像を見ることで、フラッシュバックや悪夢のような再体験と呼ばれる症状が起きる。そのため、テレビで震災の時期の追悼番組などでは、津波のシーンをなるべく流さないようにしたり、事前に告知したりして見ることを避けられるようにしている。
小山田氏にしても、かつて暴走族のリーダーだったというのぶみ氏にしても、武勇伝として自分の過去の過ちを反省もせずに堂々と語った内容は何の言い訳もできないものだ。それに加えて私が問題だと感じるのは、メディアの姿勢だ。
小山田氏やのぶみ氏に限らず、加害者である彼らが「成功者」になってメディアなどに露出するとどうなるか。過去に被害を受けた人々は彼らの顔を目にするたびにフラッシュバックが生じてしまう危険がある。