有名人であれば完全に別名にして、マスクで顔を隠すべき

そうした意味で、メディアなどが加害者をバッシングする行為は実は好ましくない。

今回、メディアやネット上では小山田氏やのぶみ氏に対する断罪の声が相次いでいる。その際、小山田氏らの顔写真や映像が掲載・放映されることが多い。また、その名前が連呼される。被害者にとってそれらがフラッシュバックの誘因になるかもしれない。

過去、自らの言動によって人の心を傷つけた人は、自分の生き方について一定の制約が課せられることはいたしかたない。厳しい言い方になるかもしれないが、有名人であれば完全に別名にして、マスクで顔を隠すなどして、被害者の病状を悪化させない形でしか有名人としての活動はできないというのが被害者保護の精神と言える。

PTSDの症状が残る人の中には加害者に対してなんらかの“告発”を試みる人もいるが、うまくいくとは限らない。

2年前、32歳の女性が16歳のときにある有名お笑いタレントから淫行被害を受けたことを写真週刊誌に告発した事例があった。これに対して、別の有名お笑いタレントがラジオ番組の中で「まぁちょっと古いんだよな、情報が」と切り捨て、話を切り上げたことがある。

外から見ている立場ではそのように思われるかもしれないが、とくに性的なマターについては、若い頃に事の重大性や意味がわからず、10年20年経ってからやっと人に告白できるようになることは珍しくない。いや、むしろそちらのほうが通常のパターンである。

被害者が自らのことを語れるようになるには長い年月が必要

私が監督・製作総指揮を務めた映画『私は絶対許さない』(2017年)は、15歳のときに集団レイプ被害を受け、壮絶なトラウマに悩まされた女性の半生を本人の手記を基に描いたものだ。この女性は自分の性被害を告白する本を書けたのは被害を受けてから20年も経過してからのことだった。

©2018「私は絶対許さない」製作委員会
©2018「私は絶対許さない」製作委員会 オフィシャルページより

最近、有名な国際政治学者が14歳のときの性被害を自身の著書に綴って話題になったが、これにしてもやはり告白までに20年以上を要している。

性被害のような場合は、PTSDのような形にならなくても、一生人間不信が続くような場合もあり、幸せな家庭生活が送れなくなる人もいる。さらに『私は絶対許さない』の被害者のように自分を傷物のように思って、性風俗の世界に足を踏み入れる人もいる。

林真理子さんの『小説8050』(新潮社)では、いじめを契機に引きこもりになった少年が、長年の無駄な人生から訴訟という形で立ち上がる姿を描いている。最近、実在の事件でもそのような形で闘う話が報じられていた。

被害者の心の再生には恐ろしく時間がかかり、再生できずに一生引きずることもある。いずれにしろ失われた時間は返ってこない。また、ほとんどの被害者はそのような訴訟を起こせず泣き寝入り同然で心の傷に苦しんでいるのである。

つまり、被害者の人生をめちゃくちゃにしてしまうのである。トラウマの被害というのは、それだけ長く続くものだ。私は他人に大きなトラウマを与えるような集団暴行、性犯罪、恐喝のような事案に関しては時効をなくすべきだと考えている。

未成年の頃に犯したことであっても、相手のトラウマ症状が長く続くのであれば、それが癒えるまで、希望の職業に就けないのはしかたがない。それは自業自得なのだ。

【関連記事】
「私を愛してくれる唯一無二の存在」そんな母親と完全に連絡を絶つようになった理由
「粉飾決算、パワハラ、いじめ」が横行するヤバい職場に共通する"ある雰囲気"
マリエさんの枕営業告発が一瞬で話題から消えた2つの理由
「恫喝大臣」西村康稔氏は、灘→東大法で頭はいいが"心はバカ"
「仕事やお金を失ってもやめられない」性欲の強さと関係なく発症する"セックス依存症"の怖さ