「統計には表れない」レイプ被害の女性は年3万人もいる

被害者の心情からすれば、加害者に民事裁判で賠償金を支払わせ、なおかつ刑事罰も受けさせないと合わないという気持ちであるにちがいない。

就任の記者会見をする警察庁の中村格新長官=2021年9月22日、東京都千代田区(写真=時事通信フォト)
就任の記者会見をする警察庁の中村格新長官=2021年9月22日、東京都千代田区(写真=時事通信フォト)

先ほど、警察が認知する(被害届を認めた)レイプ件数は1289件と書いた。年間でこの程度の数字なら、大したことはないではないかと勘違いする人もいるかもしれない。

レイプの場合、被害者がセカンドレイプを恐れたり、周囲の人に知られた結果、同情されるどころか差別されることを回避したりして、警察に被害届を出さないことが多い。

被害届を出せない理由は他にもある。被害者は被害を受けた後しばらくはショックで頭がボーっとしてトラウマ記憶が思い出せない解離のような現象が起こることがある。

内閣府の調査ではレイプ被害を警察に相談できたケースはわずか3.7%にとどまる(相談できなかった理由は、恥ずかして誰にも言えなかった、我慢すればやっていけると思った、そのことを思い出したくない、など)。つまり、認知件数が1000件ほどでも、実際は年間3万人もレイプ被害にあっているのだ。

さらに、内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(平成29年度調査)によれば、女性の13人に1人が無理やりに性交される被害にあっている(女性の7.8%)。決して他人事とはいえない。ちなみに、軽症や無症候者も含むコロナ感染者は日本人全体の80分の1だ。

被害を受ける確率の高さ、後遺症のひどさ……いずれもコロナの比ではないのがレイプその他の性被害なのである。

先進国では暴行の有無でなく、同意がなければ原則レイプという考えが強まっている。それくらい心理的な後遺症が大きく、女性の尊厳にかかわる問題なのだ。この女性の人権を守る国際トレンドがあるから、ISであれ、タリバンであれ、中国のウイグル地区の弾圧であれ、レイプを最重要の課題としている。今後日本は、性犯罪に厳然とした態度で臨まないといけないのは明白だ。

こうした国際トレンドの中で、今回の中村氏のような昇進人事を許していいのか? 自分の娘や女きょうだいや妻やパートナーなどが身の危険にさらされている状況下で、性犯罪に対して甘い態度をとっている人間が警察のトップでいいのか?

総裁選におけるテレビ討論で、この人事について各候補が聞かれることはないだろう。メディアも認識が甘いのだ。となれば最後の砦は、国民である。とりわけ女性は日常的にコロナ以上に、性被害という恐怖・危険が潜んでいることを再認識してほしい。大甘の人事を遂行する現政権に鉄槌を下せるのは、私たち有権者しかいないのだ。

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