8月6日、東京都世田谷区を走行中の小田急線の電車内で刺傷事件が起きた。文筆家の御田寺圭さんは「現代社会で起きる通り魔的な事件には共通する背景がある。それは犯行に及ぶ人々が“疎外”されてきたことだ」と指摘する――。

※編集部註:初出時、タイトルに「小田急線殺傷事件」とありましたが、「小田急線刺傷事件」の誤りでした。訂正します。(8月19日12時42分追記)

小田急線車内で6日、乗客が刃物で切られた事件で、ホームを調べる警察官ら=2021年8月7日未明、東京都世田谷区(後方は、運転再開され、新たに運行される車両)
写真=時事通信フォト
小田急線車内で6日、乗客が刃物で切られた事件で、ホームを調べる警察官ら=2021年8月7日未明、東京都世田谷区(後方は、運転再開され、新たに運行される車両)

「フェミサイド」と騒がれた小田急通り魔事件

小田急線快速急行の車内で突然男が刃物をもって暴れ、居合わせた乗客を無差別に切りつけて逃走した事件があった。

東京都世田谷区を走行中の小田急線快速急行の車内で、男が複数の乗客を刃物で切り付けて逃走した事件で、警視庁捜査1課は7日、殺人未遂の疑いで、川崎市多摩区西生田4、職業不詳対馬悠介容疑者(36)を逮捕した。成城署に捜査本部を設置し、計画的に無差別殺傷しようとした疑いがあるとみて調べている。
(中略)
逮捕容疑は、6日午後8時半ごろ、成城学園前―祖師ケ谷大蔵間を走行する電車内で、都内の女子大学生(20)の背中や胸など7カ所を牛刀(刃渡り20センチ)で切り付け、殺害しようとしたとされる。
対馬容疑者は「大量に人を殺すため、各駅停車より駅の間が長く逃げ場のない急行を選んだ。誰でもよかった」と供述。「人を殺せず悔しいが、乗客が逃げ惑う光景を見て満足した」と話しているという。
京都新聞『小田急線刺傷 36歳男逮捕「勝ち組の女性を標的に」「乗客が逃げ惑う光景を見て満足」 無差別殺傷を計画か』(2021年8月7日)より引用

これはネットでも大きな話題となった。

事件発生直後の初報において「勝ち組の女性(幸せそうな女性)を標的に」という文言があったことから、一部界隈ではこれを「フェミサイド」だと断定し、一部の人びとはまるでこうした出来事を「待ってました」といわんばかりに声を荒げ、「フェミサイドだ!」「女性が幸せそうにしているだけで私たちを殺さないで!」「日本は女性が命の危険にさらされる女性差別大国!」などと勢いづいていた。

男性も女性も「無差別に」狙われている

だが、そうした主張は実際には「ファクト」ではないことは付言しておきたい。そもそも本事件でも被害者のうち半分は男性であるし、少なくとも近年における「無差別殺傷事件」の被害者は男性も女性も数としてほとんど同数である(データをいろいろ見てみる「フェミサイドという言葉は男性被害の透明化によって流通するのでは?」)。ツイッターのフェミニストや一部のネット論客が既成事実であるかのように語る「日本では無差別といいながら、実際は女性ばかりが狙われている」「女性ばかりが殺されている」などということはない。男性も女性も、やはり文字どおり「無差別に」狙われ、傷つけられているのである。

こうした事件の際にしばしば報道発表で警察側から伝えられる「だれでもよかった」という犯行動機がある。

ご存じの方も多いと思われるが、この「だれでもよかった」というフレーズは、警察による「作文調書」と呼ばれるものの代表的な一例として考えられることもある。ようするに、警察が詰めかけるマスコミ対応のためのとりあえずの初報として報道発表に間に合わせるために(あるいは今後の捜査で警察にとって都合よくことを運ぶために)作成する「テンプレ」のようなものだ。