「痛みは脳で感じる」痛みと脳との深い関係

慢性の腰痛が難しいのは、原因が良く解らない痛みだからです。ケガや病気がきっかけで起こることはありますが、病気やケガから回復して、特におかしなことは見つからなくても、痛みは続き、明らかに日常生活のさまたげになっています。

さて、どうすればいいのでしょうか。痛みはどこで感じるのでしょうか。腰が痛い時、痛みを感じるのは腰? 坐骨神経? 筋肉? 脊髄? それとも……

医師同士でX線の写真を議論
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです

「幻肢痛」という疾患があります。ケガや病気によって切断された四肢が、存在するように感じて痛むことです。なぜ幻肢痛で、痛みを感じるのでしょうか? 存在しない部位の痛みをどうやって感じるのでしょうか? その答えは「脳で感じる」です。

最終的に脳で様々な情報が統合(情報処理)されて痛みとして感じられるのです。身体の各部位(末梢)からの信号が、脳の中に蓄えられている様々な情報(記憶、感情)と統合されて、痛みが発露します。脳の状態によって、痛みの感覚は強くも弱くもなりえます。

痛みの要因が脳疾患のことも、想像以上によくあります。てんかん患者は、頭痛、脱力や意識消失を伴う痛み発作、強い刺激(光、音、においなど)で誘発される痛みを感じますし、認知症患者は痛みの感覚と、他の感覚・感情(さびしさなど)とが混合され、痛みの原因として見逃されます。軽度認知症や薬剤性認知症の患者さんの腰痛には要注意です。

次回は腰痛編第3回、慢性の腰痛を治すための生活習慣の改善、運動療法を解説します。

(詳しく知りたい方はこちら)
・慢性痛に関する医療者(患者・家族)向けYouTubeチャンネル「慢性の痛み講座 北原先生の痛み塾」(毎週水曜日に更新)
第29回:慢性痛と検査
*MRIから腰部脊柱管狭窄症を指摘され、それが腰痛の原因だ、と説明される患者さんがいます。慢性痛における画像診断の位置づけについてお話ししています。
第57回:慢性痛講座 神経痛概論
第58回:神経痛概論② 神経痛の診断基準ほか
第59回: 神経痛各論 坐骨神経痛ほか
*腰痛の原因として、坐骨神経痛や腰部脊柱管狭窄症という病名をつけられる人が結構います。そのような、「神経痛」の診断がしっかり行われていないことについて、指摘しています。
・慢性痛についての総合的情報サイト「&慢性痛 知っておきたい慢性痛のホント
*私が一般の方向けに総合監修しています。動画「あるペインの少女クララ」は必見です。

(注1)本稿での解説は、世界最高峰の痛みの研究組織、米国ワシントン州立ワシントン大学集学的痛み治療センターでの5年間の留学時代に習得し、日本帰国後に臨床に応用し多くの症例を積み重ねたうえで多少改変した、痛みの専門医として有効性が高いと感じる個人的見解、私論であります。意見には個人差がありますので、あくまでも主治医の先生と相談のうえ、どの治療を選択するかは自己責任としてくださいますよう、お願い申し上げます。
(注2)私の在籍する横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック内科では、現在、神奈川県内の患者さんのみ受け付けています。全国各地からのお問い合わせは「慢性の痛み政策ホームページ」の全国の▼集学的痛みセンターの一覧をご参照ください
(注3)厚生労働省「からだの痛み相談支援事業」の電話相談窓口は▼こちらです

(聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)
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