「数値化」と「客観的」は違います。痛みは常に主観的であり、心理社会的要因は大変重要な要素ですが、数値化で測れるものではありません。通常、整形外科医はここまで分析はしません。ですので「腰部脊柱管狭窄症」という診断は誤診ではなく、一面的な診断というわけです。
痛みの原因は医者でもなかなか分からない
慢性痛の原因は何かを探るとき、その原因の幅広さ、奥深さは果てしないものです。上の図表の通り、因果関係では理解できない「複雑系」であることがわかります。1つや2つの要素で原因を確定できるものではないのです。
骨がゆがんでいるのが腰痛の原因なのか? 痛みが始まったときに骨がゆがんだのか? 痛みが治ったら、骨のゆがみは治ったのか? 骨がゆがんでいると必ず痛みがでるのか? ……目に見えるものは信じやすいのですが、目に見えるものだけではなく、心と体と生活の目に見えていないものの奥深くに真の原因がある、という「名探偵コナン」のような推理力、洞察力が求められます。
「原因がわからない痛みは心因性ではない。原因がわからない痛みは原因がわからない痛みである」という滋賀医大、小山なつ先生の名言を深くかみしめたいと思います。
かつて多くの手術実績のあった腕のいい高名な整形外科医が、手術した患者の追跡調査を行った結果、あまり成績が良くなかったことが判明し、手術一辺倒で歩んできたことを反省しました。そして50代超えてからは、一転して保存療法、集学的治療を推奨するようになりました。これまで積み重ねた技術と経験を省みることはなかなかできない、医師として尊敬すべき謙虚な方針転換だと思います。
i.腰椎に原因があることは実は少ない(特に著明な変形や神経所見がない場合)
・しかし整形外科に行くとiばかり診断される⇒有効性の少ない手術への誘導
ii.腰部の筋肉に原因がある。腰のマッサージや鍼治療で反応がある。筋肉が相対的に少ない(絶対的な筋力不足and/or過体重)and/or緊張が高い(柔軟性不足)
→iiは腕のいいマッサージ師や鍼灸師、しっかりしたPT(理学療法士)などで解る。医師で解るものもいる。⇒腰部筋群の筋肉強化や柔軟性アップ、減量などで良くなる。
iii.腰部周辺の筋肉に原因がある。腰のマッサージや鍼治療で反応が少ない。腹筋群、臀筋群、下腿筋群、胸背部筋群などの筋肉が相対的に少ない(絶対的な筋力不足and/or過体重)and/or緊張が高い(柔軟性不足)
→iiiはなかなか気が付かない。腕のいいマッサージ師や鍼灸師、しっかりしたPTも「首をかしげる」。広い範囲の筋肉や関節の状態を調べることでようやくわかる。
iv.その他:認知症などを除く必要がある→ivも見逃すと厄介。