死の表現は避けられない

「たまごっちは、24時間一緒にいられるデジタルペットとして作られました。ほとんどのゲームやおもちゃは、人間の都合でオンオフされますが、生き物は24時間ずっと生きている。ペットショップで犬や猫を見ると、最初はかわいいとしか思わないけど、いざ飼ってみると面倒くさい。そのリアリティーを追求した。生まれたては頻繁に呼び出され、こまめにミルクをあげなければいけない。お世話をサボると機嫌が悪くなったり病気になったりしてしまう。このコンセプトは、当時としては大人っぽかった」

初代たまごっち(オレンジ)
写真提供=バンダイ
初代たまごっち(オレンジ) ©BANDAI

本当のペットのように真剣に育てなければならないリアリティーが、大人にも人気になった理由だろう。そして、リアルさの追求から「死」の概念を取り入れる。たまごっちは、病気や空腹の状態、また寿命によって死を迎える仕様になっていた。

「生命の育成の疑似体験ですので、死は避けられない。おもちゃではあまり描かれない概念だったので、どう取り入れ表現するかは、結構真剣に議論されたと聞いています」

死については各国で宗教観が異なる。日本のたまごっちでは、十字架のお墓と三角の布を頭に付けた幽霊で表現されるが、海外では天使だったり、十字架以外のお墓など、異なる表現を用意した。余談だが、この記事の担当編集者は、4歳の時に親に買ってもらったたまごっちで死の概念を学んだという。

初回の出荷数は通常の約10倍

ユーザーは、真剣にお世話した分、その死を悲しんだ。ドット絵なのでビジュアルとしてはリアルでないにも関わらず、ペットロスに近い精神状態になる人も少なくなかったそうだ。ゲームやコンテンツに置けるリアリティーとは何か考えさせられる。

これらのリアリティーは、今でこそヒットの要因と考えられるが、発売する前はこの点が不安視された。電源がオフにできないのは不便だし、ユーザーの都合を考えず呼び出されるのは面倒に思われ、嫌われることも考えられた。

「社内では売れないだろうという意見が多かった。ただ、発売前のテストセールスでは、女子高生を中心に反応が良く、幅広い層に受け入れられる期待感があった。おもちゃではあるが、ターゲットを子どもに絞らず、大人が手に取りやすいパッケージデザインにしました」

初回出荷数は、通常の玩具で初回に出荷する数量の約10倍だった。社内でも反対意見があったが、結果は冒頭に述べたとおりだ。