統合型リゾート施設(IR)誘致計画の申請が10月1日に始まった。現在誘致を公式に表明しているのは、大阪府・市、和歌山県、長崎県だ。経済ジャーナリストの芳賀由明さんは「横浜市が撤退した影響が3つの地域に及び始めている。コロナで状況は変わった。一歩間違えると、ハコモノ行政の繰り返しになる」という――。
カジノを含む統合型リゾート(IR)の事業者について記者会見する大阪府の吉村洋文知事=2021年9月28日、大阪市中央区
写真=時事通信フォト
カジノを含む統合型リゾート(IR)の事業者について記者会見する大阪府の吉村洋文知事=2021年9月28日、大阪市中央区

このままでは「歴史的失敗」に現実味

カジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致施策が岐路に立たされている。有力候補地と目されていた横浜市が撤退した影響が残りの3地域にもおよび始め、来年4月以降の政府の誘致先選定に暗雲がかかり始めた。また、世界で猛威を振るう新型コロナウイルスがIR環境を一変させた。コロナ以前に作られた大規模集客施設の建設計画や経済効果の皮算用を見直しせずに突き進めば、ラストリゾートともてはやされた日本のIR誘致が歴史的失敗に終わりかねない。

国交省はIR誘致計画申請の受付を10月1日に始めた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で当初予定より9カ月遅れてのスタートだが、コロナ禍がIR誘致に及ぼす影響は受付時期の遅れだけにとどまりそうもない。

現在、IR誘致を公式に表明し事業者の選定を終えたのは大阪府・市、和歌山県、長崎県の3地域。IRの旗振り役だった菅義偉前首相のお膝元であり最有力候補とまでいわれた横浜市が反対派市長の誕生で一転して撤退を決めたことで、政府方針の「最大3カ所まで」という枠に収まる3グループは安堵するかにみえた。しかし事態は全く逆のようだ。

横浜の方針撤回に勢いづいて反対運動も活発化、IR誘致を表明した自治体への風当たりがにわかに強まってきた。

コロナ前後でIRを取り巻く環境が変わった

「コロナの前と後ではIRを取り巻く環境が全く変わった。“ポストコロナ”に適応した形に見直さなければ必ず失敗する」

双日総合研究所の吉崎達彦チーフエコノミストは、コロナ感染拡大前に作られたIR政策や事業計画を早急に見直すべきだと警鐘を鳴らす。

IRの中核施設の開発要件は2018年に施行されたIR整備法とその後の施行令に定められており、宿泊施設は客室床面積の合計が10万平方メートル以上(客室換算2000~2500室)、国際会議施設は概ね1000人以上の収容能力、展示会施設は国際会議施設の広さに合わせて2万平方メートル、6万平方メートル、12万平方メートルから選択、などとなっている。また、カジノ施設はIR施設全体の床面積の3%以下に制限する。

IR誘致を目指す3地域はこれらの開発要件に基づいて国に提出する「区域整備計画」を策定するため、事業者から提出された計画案を審査して発注事業者を選定する。つまり、「区域整備計画」は国が求めた巨大施設の建設と、それに見合う集客見通しや収益見通し、自治体が求める経済効果をすべて盛り込んだものになるわけだ。