旅が決して特別なものではなくなった今、日常の延長として「暮らすように旅する」旅行商品への需要が強くなっている。
JTB西日本の「地域交流ビジネス推進室」も、そんな旅を提案すべく発足した。室長を務める塩見正成さん(44歳)は、関西に眠る観光資源を掘り起こしながら、国内外からの旅行客に来てもらうしかけをつくる。現在手がけているプロジェクトは、中小企業が集まる東大阪の「ものづくり観光」だ。現地の中小企業に修学旅行生を連れていき、ものづくりの現場に触れながら、経営者から直接仕事の話を聞いてもらう。旅行商品としてJTBにメリットをもたらすのみならず、学生たちに、後継者不足に悩む中小企業に就職先としての興味をもってもらい、地域経済の活性化につなげることが最終目的となる。
地元に密着した旅の提案とともに、現地に潜む課題に解決策を提示することが塩見さんのゴールだ。綿密な調査・検討を行い、着地点が決まったらそこに向かうロードマップを示して動かしていく。多くは3年程度を要する長期戦となる。
「地元の支店スタッフも巻き込みながら、自治体のキーマンから商店街の人にまで会う。多くの人の協力が不可欠なんです」
旗振り役を務めても主役はあくまで地域の人々。黒子に徹しながら、利害も考えも異なる人々に、何度も何度もゴールの重要性を話し、最後にはそこへ向かってもらえるよう根気よくコミュニケーションをとり続ける。だからこそ、「人と関わる時間はあえて効率を問わない」と塩見さんは語る。
その時間を捻出するためにも一人でできる仕事は効率的にこなす。朝は起きてすぐ入浴。その日のスケジュールを頭に浮かべながら、閃いたことは朝食時にメモしてから出社。会議は極力朝一番か、夕刻に設定し、緊急以外のメールの返信も朝夕の30分だけと決めている。帰宅後は、翌日の「旅程表」をつくる感覚で、todoリストを作成、毎日チェックする。
直属の部下は3名。マネジメントにおいては「同時に同質の」情報を与えることを心がける。
「特定の部下に『ここだけの話だけど……』といったことはしません。仕事に必要な情報が、人によってずれていると大きな時間ロスにつながりますから」
こんな公平な姿勢は、関係者との信頼にもつながり、3年後のゴールへと、ともに歩むための一番の近道となるはずだ。
土日は基本的に仕事をしない塩見さんは、趣味でマンドリンクラブの指揮者を務めて20年になる。アマチュア演奏者たちは年齢も性別も、参加理由もさまざま。異なる思いを抱えてそこに集う人々を、限られた時間で年一度の演奏会に向けて指揮する経験は、きっと本業にも大きく貢献しているはずだ。
※すべて雑誌掲載当時