「成果主義」を謳いながらも、運用面では「年功序列」を維持している企業は少なくない。なぜ成果主義に移行できないのか。人事コンサルタントの相原孝夫さんは「年功序列の崩壊は、働く人たちの感情にネガティブな影響を与える要因になり得る。そこに生じる妬みややっかみというネガティブな感情はとても強く、職場の人間関係を悪化の方向へと強力に導いてしまう」という――。

※本稿は、相原孝夫『職場の「感情」論』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

若い男性の報告をけわしい表情で聞くシニア男性
(写真=iStock.com/metamorworks)
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昇進した年下への嫉妬でこじれる職場環境

2000年前後に多くの日本企業で実施された人事制度改革において、「成果主義」型の人事制度への移行が行われました。しかし、実態は必ずしもそうはなっていないようです。

「成果主義」と謳ってはいても、中身は成果ではなく能力であったり、成果を評価する仕組みとはなっていても、運用面で年功序列となっていたりといったケースが大半です。

ではなぜ、日本企業においては、本来の「成果主義」型の人事制度への移行が難しいのでしょうか。これにはいくつかの理由があります。評価者である管理職のスキルが十分ではなく、成果を適正に評価できないというのも一因です。また、「がんばった」などのプロセスを重視しがちな価値観も根強く残っています。効率的に仕事をして早く帰る部下よりも、非効率ではあっても遅くまで残っている部下を上司が可愛がるような価値観です。

仮に、「成果主義」に則った運用をしていたとしても、それはそれで問題は残ります。成果主義の場合、若くても実力があり高い成果をあげれば給料が上がり、立場も上がります。それにより、年功序列は崩壊することになります。年功序列の崩壊は、そこで働く人たちの感情にネガティブな影響を与える要因になり得ます。そこに生じる妬みややっかみというネガティブな感情はとても強く、職場の人間関係を悪化の方向へと強力に導くのです。

分かりやすい例としては、最近多く見られるようになった、「年下上司・年上部下」という状況があります。

年功ではなく成果で昇進昇格などの処遇が決まるようになると、こうした年功上の逆転現象が起こるようになります。しかし、長いこと慣れ親しんできた、上司は年長者という状態が崩れ、感情が大きく揺さぶられる状況になります。役職というのは目に見えやすいがゆえに、ことさら問題を大きくしがちです。こうしたことをきっかけとして、職場は容易にネガティブな感情が支配するようになります。いったんネガティブに振れた職場を健全な状態に戻すことは容易なことではありません。