「返信が遅い」小さな積み重ねが致命傷

私は仕事柄、職場状況の改善の支援を長年行ってきた中で、この面の難しさは、状況を左右するのが小さな事柄の積み重ねであるという点にあると確信を持って言うことができます。

何か制度を策定したり、ルールを制定したりすれば変わるというものではなく、もちろん、何か大きなイベント事をやって急に変わるというものでもありません。

実際に、職場の上司・部下や同僚どうしの関係性は「マイクロムーブ」に左右されるということがわかっています。「マイクロムーブ」(※)とは、メールの返信が遅れたとか、ランチに誘わなかったとかといった、その瞬間には取るに足りないように思えますが、互いの関係に影響を及ぼす、些細な行動や態度のことです。それらがポジティブに働き、関係を近づけることもあれば、ネガティブに働き、関係を引き離すこともあります。

外で弁当を食べる若いサラリーマン
写真=iStock.com/TommasoT
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ネガティブな出来事の方が影響は大きい

もう一つ、職場の問題においてやっかいなのは、ネガティブな影響の方が、ポジティブな影響よりもはるかに大きいという点です。

「ネガティブ・バイアス」と言われる現象です。ネガティブな出来事はたった一つで大きな影響を及ぼし、いとも簡単に職場に悪循環をもたらします。一方、好循環を起こすには、多くの継続的なポジティブな働きかけが必要となるのです。年功序列の崩壊といった状況も、一瞬でネガティブな影響を職場全体に及ぼしかねません。

また、「成果主義」制度の中での評価に納得がいかないなどの状況も多く起こっています。成果が目に見える形で測定できる仕事はそれほど多くないからです。期待された成果があがったかどうかについて、自己評価と上司評価との間に大きなギャップが生じることは普通にあるわけです。それが不満や不公平感となり、職場の同僚間の関係を悪化させることにもつながります。こんなことならば、評価するまでもなく明らかな年齢や勤続年数といった年功で処遇が決まった方がむしろ公平であり、納得しやすいという声も若手社員から聞かれることすらあります。

同僚間の関係に影響を与えるマイクロムーブにしても、ネガティブに影響するマイクロムーブの方が、ポジティブに影響するマイクロムーブよりも、発生しやすく、かつ一層パワフルなのです。関係を害したおそれのあるマイクロムーブに思い当たる節があれば、それを埋め合わせるために、その何倍ものポジティブなマイクロムーブを起こすよう努力しなければなりません。「年下上司・年上部下」という状況においては、職場の皆が相当気を付けて、ポジティブな方向へ向かわせるような些細な行動を継続的に起こす必要があるのです。

The Little Things That Affect Our Work Relationships, May 29, 2019.