次世代の不甲斐なさをいいことに、長老たちは国家権力をほしいままにしている。彼らは自民党が大幅に議席を減らすことより世代交代が進んで自らの地位が脅かされる方が嫌なのだ。だからこそ現状維持を望んで菅首相再選を支持する。

菅首相以外に出馬を表明したのは岸田文雄前政調会長(64)、下村博文政調会長(67)、高市早苗前総務相(60)。岸田氏は安倍氏と麻生氏の支持獲得に必死であり、下村氏と高市氏は安倍氏に近い政治家だ(下村氏は出馬を断念)。

いずれも長老たちが「内輪もめ」を優位に進めるための道具にすぎない。全員が60歳以上であることが、世代交代が止まって久しい自民党の閉塞感を映し出す。

自民党を牛耳る長老たちは何を考えているのか。まずは安倍前首相から考察してみよう。

安倍氏…最悪の事態は「過去の人」になること

安倍氏は最大派閥・細田派(96人)を事実上率いる自民党最大のキングメーカーだ。首相を二度も務め、在任期間は日本史上最長なのに、三度目の首相返り咲きを狙っている。

2020年1月8日、第8回ものづくり日本大賞の表彰式で挨拶する安倍総理
2020年1月8日、第8回ものづくり日本大賞の表彰式で挨拶する安倍首相(当時)(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

病気を理由に首相を辞めた昨年秋、アベノマスクなどコロナ対策の失態で内閣支持率は低迷していた。政府主催「桜を見る会」に地元支援者らを招く「権力の私物化」が激しく批判され、後援会主催の前夜祭の費用の一部を負担した公職選挙法違反の疑いまで浮上し、政権運営は行き詰まりをみせていた。

いったん身を引いて疑惑追及が収まるのを待ち、自らに従順な岸田氏に禅譲して三度目の首相登板の機会をうかがおう――安倍氏はそう考えた。最も避けたかったのは、国民的人気が高い石破茂元幹事長(64)の首相就任だ。石破氏は安倍氏の疑惑追及に前向きだった。「石破政権阻止」が安倍氏の至上命題であった。

そこを二階幹事長につけ込まれた。二階氏は安倍氏に従順な岸田氏の首相就任は避けたかった。そこで石破氏を担ぐそぶりをみせたのだ。安倍氏は慌てた。岸田氏じゃなくていいから、石破氏だけはやめてほしい——安倍氏と二階氏の「内輪もめ」と「妥協」の結果誕生したのが菅政権である。

二階氏は功労者として幹事長に留任し、人事をはじめ党運営を掌握した。内閣支持率も当初は高く、安倍氏の存在感はめっきり薄れた。安倍氏にとって面白くない政権ができたのだ。

菅首相がコロナ対策で失態を重ね、内閣支持率が下落したのは幸運だった。だが菅首相が政権を投げ出すことは避けたかった。そうなれば衆院選挙が近づくなか、国民的人気の高い石破氏か河野太郎ワクチン担当相(58)の首相登板を求める声が高まるだろう。

石破氏に対抗するには河野氏を担ぐしかない。だが河野政権で衆院選挙に圧勝したら自分は「過去の人」になってしまう——首相返り咲きを狙う安倍氏にとって「新しいスターの誕生」は最悪の事態なのだ。