二階氏…石破氏を「ポスト菅」のカードとして握る

二階幹事長は党運営を掌握できる菅政権に大満足だった。唯一警戒してきたのは、菅首相が総裁選で安倍氏の支持を得る見返りに二階氏を幹事長から外す人事を断行することだった。

2016年5月23日、安倍首相(当時)に、経済政策に関する申入れを行う二階俊博幹事長
2016年5月23日、安倍首相(当時)に、経済政策に関する申入れを行う二階俊博幹事長(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

老獪な二階氏はこれに備えて菅氏に代わるカードを複数枚用意してきた、ひとりは小池百合子東京都知事。総裁選に先立って衆院選挙が実施されれば、小池氏に都知事を辞めて自民党から出馬させ、その後の総裁選に担ぎ出す。この構想は総裁選が総選挙に先行実施される方向となり困難になった。ふたりめは野田聖子幹事長代行。小池氏同様「初の女性首相」として担ぐことを想定し幹事長代行に起用したのだが、野田氏への期待感は党内で高まらなかった。

最後に残るカードが石破氏だった。安倍氏が石破氏を徹底的に干しあげるなか、二階氏は石破氏と接触を重ねてきた。石破派は総裁選出馬に必要な推薦人20人を割り込み自力で出馬するのは難しい。それでも国民的人気を保つ石破氏を「ポスト菅」のカードとして握り続け、安倍氏の「二階外し」を牽制してきた。だが、その石破氏も自民党内で待望論が高まるには至っていない。

菅首相は8月30日、総裁選に勝利した後の党役員人事で幹事長を交代させる意向を二階氏に伝えた。安倍氏の要求を受け入れ、「菅おろし」に対抗するためだ。二階氏はこの人事を容認した。有効な「ポスト菅」カードがない以上、幹事長ポストを差し出すことで菅首相再選に貢献し、自らの影響力を残す道を選択したとみられる。

菅氏…とにかく政権を一日でも長く続けたい

さいごに菅首相を分析してみよう。

当初は東京五輪で支持率を回復させ、9月5日のパラリンピック閉会後ただちに衆院解散・総選挙を断行して安定多数を得て、総裁選を無投票で乗り切る戦略を描いていた。

ところが、感染爆発と医療崩壊で緊急事態宣言を9月12日まで延長することになり、9月の衆院解散は事実上困難に。総裁選の先行実施に追い込まれ、自民党内で「菅おろし」の声が広がることになった。

それでも菅首相が総裁選勝利に自信を抱いているのは、安倍氏、麻生氏、二階氏の支持を得ているからだ。選挙に弱い若手議員がいくら反発しても長老3人の支持さえ固めれば再選は揺るがないと確信している。二階幹事長の交代を決断したのも、安倍氏と麻生氏の支持をつなぎとめるには二階氏に「譲歩」してもらうしかなかったからだ。

自民党総裁選さえ乗り切れば、10月か11月の衆院選挙で野党に負けなければよい。議席を多少減らしても自公で過半数を割る可能性は低く、万が一そうなっても維新の会を引き込めば政権を維持できる――菅首相が目指すのは、自らの政権が一日でも長く続くこと。そのためには安倍氏、麻生氏、二階氏の「内輪もめ」を何とか話し合いで修復し、「長老3人+菅首相」による支配体制を継続するのがいちばんいい。