私は菅首相を当選2回の「若手」だった2003年当時から取材してきたが、苦境に立つほど強気一辺倒で押してくるタイプの政治家である。若手議員が「菅おろし」をやめないのなら、総裁選前に衆院解散を断行すると脅せばいい。選挙に弱い若手は震え上がって大人しくなるだろう——菅首相はそう腹をくくっているとみていた。

菅首相は二階幹事長に交代を告げた8月30日、総裁選前の臨時国会召集を見送る意向を党幹部に示し、衆院解散・総選挙を総裁選後に先送りする姿勢を鮮明にした。安倍氏が求める「二階外し」を実行することで「菅おろし」は抑えられる。もはや衆院解散で若手を脅す必要もなかろう——そんな手応えを感じているに違いない。

不人気の菅首相を延命させる長老たちの権力欲

不人気の菅首相の再選がなぜ有力視されるのか、安倍氏、麻生氏、二階氏の長老3人が支配する自民党内の事情を読み解いた。コロナ危機に直面する私たちの社会を導いているのは、内向きの権力維持にたけた長老たちである。

総裁選不出馬を示唆してきた石破氏は、菅首相の支持率続落と、岸田氏ら対抗馬への期待感が高まらない現状をみて、出馬の可能性を探り始めた。だが、頼みの二階氏が石破氏支持に転じる気配は今のところなく、出馬に踏み切れるかは不透明だ。石破氏と並んで国民的人気の高い河野氏は、菅首相が不出馬に追い込まれない限り、菅内閣を支えるワクチン担当相としての役割を投げ出して出馬するのは困難とみられている。このままでは「長老3人+菅首相」の支配体制は継続されそうな雲行きだ。

自民党が自浄作用を発揮して新陳代謝を進める機会が総裁選である。投票に参加できるのは自民党の国会議員と党員だけ。彼らが長老支配に甘んじるのか、世代交代を進めて生まれ変わるのか。私たち有権者は総裁選の行方をよく見定めて今秋の衆院選挙で投票先を決める材料としたい。

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