対テロ戦争を名目に100万人のウイグル族を拘束

「中国と国際社会はともに対テロ戦争を戦っている」とは、これまで中国政府が繰り返し語ってきたメッセージだ。

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2009年7月5日に新疆しんきょうウイグル自治区ウルムチ市で起きたウイグル族と漢族の衝突事件は、少なくとも197人の死者が出た惨事となった。

その後も自治区内外でウイグル族関連の事件は繰り返され、2013年には天安門広場に自動車が突入、炎上する事件が起きたほか、2014年には雲南省昆明市の駅で、刃物を持った5人のウイグル族が刃物をふるって31人を殺害する事件も起きた。

こうした一連の事件の後、中国政府はイスラム原理主義に傾倒している可能性がある者を予防的に拘束するなど、新疆ウイグル自治区における警戒、監視体制を強化した。収容者の数は100万人に達するとも言われていた。

「イスラム原理主義勢力は敵だ」と叩き込まれてきたが…

ウイグル族への強権的弾圧は人権侵害だとして国際社会の批判を集めてきたが、中国政府は反テロ戦争への取り組みだと反論してきた。米国のアフガニスタン介入と中国の新疆ウイグル自治区における取り組みは同じ国際的な対テロ戦争という枠組みにある。

それにもかかわらず、中国のみを批判するのはダブルスタンダードなのではないか、と。

この中国政府の論理から考えれば、タリバンの勝利は国際的な対テロ戦争の失敗であり、別の戦線で共同歩調を取っていた中国にとっても危機となるのは当然のはず。こっそり主張を転換し米国だけが失敗したと話をすりかえているわけだ。

もっとも、いきなりの方向転換は中国人民にも戸惑いを与えている。というのも対テロへの取り組みは中国国内で散々宣伝されてきた。

「反恐 宣伝」と画像検索すると、武装警察が子どもたちを守るかのように立っているポスターや、アニメ風イラストの警官のポスターなどがずらり出てくる。たんに市民に安心を与えるものだけではなく、「テロ関連の情報を手に入れたらすぐ通報を」という呼びかけもある。

2014年成立の反スパイ法では外国のスパイやテロに関する情報を通報するのは中国国民の義務とされているので、その義務を果たせというわけだ。