強引な軌道修正に国民も混乱
ポスターだけではない。テレビ、そして中国版ティックトックのドウインやその他の動画サイトなど、さまざまなサービスでこうした対テロ対策は呼びかけられてきた。
前述のウイグル族による暴力事件の記憶もあり、中国人の多くは「ウイグル族」「テロ」「イスラム原理主義」、そして「タリバン」などがセットとしてイメージされているだけに、中国政府がいきなり軌道修正をしてもついていくことは難しい。
中国国有テレビ局CCTV(中国中央電視台)は16日、「60秒で理解、タリバンの前世と今」と題したショートムービーを、ソーシャルメディアに公開した。動画ではタリバンとはもともと難民キャンプの学生が主力で、貧困層の支持を受け実力を拡大した勢力だと説明している。
しかし、この動画は公開後まもなく削除された。仏メディアのRFIは、中国SNSで「テロの話がすっぱりなくなってるんだが?」「バーミヤン大仏の破壊の話はどうなったの?」などなど、疑義を呈するコメントが多く付けられたためだと指摘している。
チャイナマネーでアフガニスタン情勢は安定するのか
国際社会と対テロ戦争で協調という旧来の主張を修正したとしても、中国にとっての安全保障、新疆ウイグル自治区の安定という悩みのタネが消えたわけではない。王外相とタリバン代表との会談でも、この点が強調された。王外相は次のように述べている。
「ETIM(東トルキスタン・イスラム運動)は国連安保理にリストアップされた国際的テロ組織であり、中国の国家安全と領土の一体性に対する直接的脅威である。ETIM取り締まりは国際社会の共同の責任だ。
アフガニスタン・タリバンはETIMなどすべてのテロ組織と完全に一線を引き、徹底して有効な取り締まりを行い、地域の安全と安定、発展と協力の対する障害を取り除くための積極的な働きを示し、有利な条件を作り出して欲しい」
これに対し、タリバン側からは「いかなる勢力であれ、アフガニスタンの領土を利用して、中国に危害を与えることを絶対に認めない」との返答があったという。
今後、タリバンが国家建設を進めるためにはチャイナマネーの支援を受けられるかは大きなポイントだけに、こうした合意が成立するのは自然だろう。しかし、中国側が期待するような安定が実現できるかは未知数だ。
たとえ、タリバンが反中国政府の勢力に直接支援を行わなかったとしても、治安が悪化しガバナンスの効かないアフガニスタンを拠点として、そうした組織が力を蓄える可能性はある。