柔道の大野将平選手が、東京五輪の男子73キロ級で2大会連続の金メダルを獲得した。スポーツライターの本條強さんは「その道のりは険しかった。リオでは完璧な柔道で優勝を果たしたが、東京五輪ではその自分を倒す精神力が必要だった」という――。
東京・日本武道館で開催された「東京2020オリンピック」の柔道男子73キロ級決勝戦に出場した日本の大野将平(白)とジョージアのラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ=2021年7月26日
写真=AFP/時事通信フォト
東京・日本武道館で開催された「東京2020オリンピック」の柔道男子73キロ級決勝戦に出場した日本の大野将平(白)とジョージアのラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ=2021年7月26日

小さくて泣き虫だった大野の金メダル

ゆっくり時間をかけ、深々と一礼すると、天井を見上げた。

「柔道の聖地、日本武道館の景色を目に焼き付けておきたかった」

溢れ出そうになるものをグッと堪えた。

東京五輪を制し、リオ五輪からのオリンピック2連覇を果たした大野将平は、そのとき、今日一日の闘いをしみじみと思い出していた。

「リオを終えてからの苦しくて辛い日々を凝縮したそんな1日の戦いでした」

小さくて泣き虫だった大野が柔道によって強くなり、自分に自信を持ち、24歳の時に出場したリオ五輪で悲願だったオリンピックに優勝する。

「世界選手権に何度勝っても世間は認めてくれない。オリンピックに勝たなければ真の柔道家とは言えない。私は金メダルしか求めない」

右の組み手を強化し、内股と大外刈りの得意技に磨きをかける。密着戦にも動じない強靱な肉体を作り上げ、前に出て投げ切る自分の柔道を作り上げた。ウェイトトレーニングでパワーアップ、力で真っ向勝負を挑む大野将平柔道である。毎日1000本の打ち込みを行うなど猛練習は激しさを増し、井上康生監督が止めに入るほどの異常さだった。

リオ五輪では人間を超えた獰猛な野獣と化していた。決勝まで準々決勝以外すべて一本勝ちを収め、圧倒的な強さを示して金メダルを獲得したのである。