なぜ、アスリートの「身長・体重」を非公表にするのか
異例の「無観客開催」となった今回の東京五輪、異例な点は他にもある。実は「日本選手団名簿」の一部の“データ”が消えたのだ。
個人情報保護の観点からJOC(日本オリンピック委員会)が代表選手の身長と体重の情報掲載を必須項目とはせず、選手は個人の判断で数値を非公表にできる。
日本のスポーツ界では2020年から身長・体重などの記載を見直す議論が始まり、その先陣を切ったのが日本陸上競技連盟(以下、日本陸連)だった。2021年2月15日、アスリートの身長・体重を非公表にすると正式に発表。マスコミなどに対して、情報の収集も控えるように通達している。
その後、世界陸上連盟、日本陸連などのホームページから身長・体重のデータが抹消され、記者らが原稿執筆時に記述が必要な場合は選手やチームの了承が必要となった。
陸連の狙いは女子選手の過度な体重制限の防止と鉄剤注射の根絶
日本陸連は2018年12月に「(鉄欠乏性貧血などに用いられる)鉄剤注射原則禁止」を打ち出しているが、これは今回の身長・体重非公表の新方針とも関連している。
以前から、継続的な激しい運動トレーニングが誘因となって起こる女性アスリートの3主徴(利用可能エネルギー不足、視床下部性無月経、骨粗しょう症)が課題だったが、身長・体重と(そこから算出される)BMI指標などの数値が独り歩きし、誤った判断をさせてしまうことがあるという。身長・体重を非公表にすることで、女子アスリートの過度な体重制限の防止と鉄剤注射の根絶につなげようという考えなのだ。
一方、陸上以外の競技も管轄するJOCの判断はどうか。こちらは冒頭で触れたように、選手の判断で身長と体重の公表・非公表を決められる。JOC内部で「身長、体重情報が選手に対する差別的(中傷など)なことに使われるのではないか」「メダル戦略としては、選手の身長、体重の情報を公開しないほうがいい」といった意見が出たことで、非公表にすることも可能にする判断となったようだ。