「衆院選を念頭に人道的姿勢を示す思惑がある」と読売社説
7月28日付の読売新聞の社説も「上告見送りを救済の第一歩に」との見出しを立て、「原爆の被害者は高齢化が著しく、残された時間は少ない。国は、これまでの援護制度を見直し、早急に救済を図らなければならない」と主張する。
さらに読売社説はその前半部分で「首相の判断の背景には、秋までに実施される衆院選を念頭に、人道的に対応する姿勢を示す思惑もあったのだろう」と書き、菅首相の心のうちを探っている。
そして、読売社説はこう訴える。
「手帳の交付事務を受託する県と市は、一刻も早く手続きを進めてほしい」
「国は、救済の対象者をどのように認定するのか、早期に決めてもらいたい」
交付手続きと救済対象者の認定、いずれも原告が生存しているうちに完了しないと救済の意味がない。
最後に読売社説は「国は、黒い雨が降った地域の特定にとらわれず、県や市と連携し、個別の被害実態に即した認定の仕組みを構築する必要がある」と指摘する。仮に救済が滞るようなら、そのときこそ菅首相が発破をかけるべきである。国民はそうした有言実行を支持するはずだ。
産経社説も「国は上告を断念し救済を急ぐべきだ」と書いていた
7月17日付の産経新聞の社説(主張)は、率直に「国は上告を断念し、幅広い被爆者救済に向けた対応を急ぐべきだ」と書き出し、広島高裁の判決をこう評価する。
「判決は『黒い雨に遭った人は被爆者にあたる』として救済の範囲を広げた。国の援護行政の従来の枠組みを1審の広島地裁判決に続いて否定し、高齢となった被爆者の早期救済を強く迫ったもので妥当である」
見出しも「『黒い雨』高裁判決 救済へ国は上告の断念を」だ。菅首相はこの産経社説を朝日社説(7月15日付)の次に読んだのかもしれない。
産経社説は「(広島高裁)判決は『被爆者援護法の意義を踏まえると、住民らに厳密な根拠を求めるのは無理がある』と退けた」と書いたうえで、最後にこう主張する。
「原爆投下から間もなく76年を迎える。原告の高齢化が進み、提訴後に14人が亡くなった。行政には血が通っていなくてはならない。広島県と広島市は国に上告断念の判断をするよう要請した。国は足並みをそろえるべきである」
「行政には血が通っていなくてはならない」。その通りである。私たち国民のためにあるのが行政だ。