ドイツの絵本が「コロナ中国起源説」を紹介?

独ハンブルクの出版社カールセンは、児童図書や絵本、マンガで有名だ。ハリー・ポッターのドイツ語版の出版元でもある。

発売停止となった『アンナとモーリッツのためのコロナの虹』(独カールセン社)
発売停止となった『アンナとモーリッツのためのコロナの虹』(独カールセン社)

そのカールセンが2020年6月、幼児と小学校低学年向けに、『アンナとモーリッツのためのコロナの虹』という教育用冊子を出版。コロナの蔓延下、何に注意し、どのように過ごせば良いかということをやさしく説明した絵本だ。

その中で、小学生のモーリッツが言う。「このウイルスは中国から来て、そこから世界中に広まっていったんだよ」

中国の指導者たちが絶対に聞きたくないセリフである。

ウイルスの起源に関しては、中国外務省の報道官が「米軍が中国に持ち込んだ可能性」があると言ったかと思えば、国営メディアを使い「冷凍食品と共に中国に持ち込まれた可能性」などという新説(珍説?)も披露してきた。とはいえ、絵本の中の「モーリッツ」がそれらと異なることを言っても、さすがに問題視する人はいなかったのだ。

中国総領事館が警戒を呼び掛ける事態に

ところが今年3月の初めに雲行きが変わった。ハンブルクの中国総領事館がホームページでこの絵本に言及し、在留中国人に「挑発、差別、ヘイトを受けないため」の「細心の注意」を促した。「事実に即さない記述」は「潜在的な安全保障上のリスク」をもたらすからだそうだ。また、ちょうど時を同じくして、中国共産党の新聞『環球時報』にも、この絵本を非難する記事が載ったという。

これを受けたカールセンの反応は迅速だった。3月5日にはホームページに謝罪文が載り、そこには、問題の絵本は直ちに販売停止で、残りは処分。重版が出るときには当該部分を修正するということが書かれた。確かに、ウイルスの由来については、どの説もまだ公式に認められたわけではないため、カールセンのこの対応はやむを得なかったのかもしれない。

ディ・ヴェルト紙の取材によれば、カールセンには中国総領事館からの抗議はなかったが、中国人からのものすごい数の「投書」が舞い込んだのだという。カールセンはそれに驚き、大慌てで謝罪文を出したというのが真相らしい。