朝日社説は「気がかりなことがある」と書く

さらに朝日社説は「気がかりなことがある」と書いたうえでこうも主張する。

「首相が『判決には受け入れがたい部分がある』として発表した談話だ。そこで強調したのは、放射性物質に汚染された水や食物を口にしたことによる内部被曝に関してで、判決が健康への影響を認めた点を『容認できない』とした」
「談話はその一方で、『国の責任で援護するとの被爆者援護法の理念に立ち返る』と述べている。その言葉に偽りがあってはならない」

首相談話は上告断念を表明した翌日(7月27日)、持ち回り閣議で決定された。政治決断にもかかわらず、一部を「容認できない」と否定するのはいかがなものか。被爆者援護法の理念に大きく矛盾する。

衆院選を前に支持率を上げて選挙を有利に戦いたいとの打算があるから、煮え切らない談話になるのだ。あらためて談話を出すことも検討してほしい。

ベースは「日本が世界で唯一の被爆国」にある

朝日新聞は原告勝訴の広島高裁判決が出た次の日(7月15日)付でも、「ただちに救済の決断を」(見出し)との社説を掲載している。

「これ以上、裁判で争ってはならない。政府はただちに非を認め、救済を決断するべきだ」と訴え、次のように主張していた。

「政府は、原爆投下直後に行われた調査をもとに、大雨が降った地域にいた人だけを特例措置として援護対象としてきた。これに対し広島地裁は、一人ひとりの黒い雨体験を重視し、健康状態も加味して判断。今回の高裁判決は、原爆の放射能による健康被害を否定できなければ被爆者にあたるとし、政府が主張する『科学的な合理性』にこだわらず救済の間口を広げた」
「被爆者の高齢化はいやおうなく進み、この裁判でも6年前の提訴後に原告のうち14人が亡くなった。一連の判決は、救済を急げとの強いメッセージである」

広島平和記念公園
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結果はこの朝日社説の主張に近いものとなった。菅首相はこの朝日社説を読んで政治決断を下したのかもしれない。ただし、繰り返すが、そこには菅首相の思惑や打算が存在した。

朝日社説はその後半部分で、「従来の行政と決別することは、役所任せでは難しいだろう。決断すべきは菅首相である。政治の責任として方針転換を指示するべきだ」と菅首相に政治決断を強く求めている。

最後に朝日社説は訴える。

「救済を求める被爆者の声を、それを支持する司法の判断を、唯一の戦争被爆国の政府が受け流すことがあってはならない」

やはり、日本が世界で唯一の被爆国であることを忘れてはならない。核兵器の問題を考えるベースはそこにある。