新聞社説は「開催反対」と「賛成」で真っ二つに

1つのテーマを巡ってこれほど意見が分かれるのも珍しい。8月8日に閉幕した東京オリンピックについての新聞の社説である。

閉会式で表示された「ARIGATO」の文字=2021年8月8日、東京・国立競技場
写真=時事通信フォト
閉会式で表示された「ARIGATO」の文字=2021年8月8日、東京・国立競技場

朝日新聞の社説(8月9日付)は「混迷の祭典」という言葉を見出しに取り、のっけから「新型コロナが世界で猛威をふるい、人々の生命が危機に瀕するなかで強行され、観客の声援も、選手・関係者と市民との交流も封じられるという、過去に例を見ない大会だった」と酷評していた。

これに対し、同日付の産経新聞の社説(主張)は「これほど心を動かされる夏を、誰が想像できただろう。日本勢の活躍が世の中に希望の火をともしていく光景を、どれだけの人が予見できただろう」と書き出し、「確かなことは、東京五輪を開催したからこそ、感動や興奮を分かち合えたという事実だ」と評価する。

沙鴎一歩は東京五輪の開催には反対だった。

7月14日付の「菅首相は『東京五輪の中断』という最悪の事態を想定できているのか」という記事では「緊急事態宣言が発令されている中でオリンピックを開催すること自体が、尋常ではない。菅首相は『開催の有無は私が判断することではない』と逃げるのではなく、一国の首相として『中止の政治決断』を下してほしい」などと訴えた。

「人々の意識に与えた影響はあるんではないか」

感染症対策の専門家の1人で、新型コロナ対策に努めている政府分科会の尾身茂会長も、これまでの国会で「パンデミック下で五輪の開催は普通はない。そういう状況でやるなら、開催の規模をできるだけ小さくして、管理の体制をできるだけ強化するのは主催する人の義務だ」と警告し、さらには「オリンピックをやるということが人々の意識に与えた影響はあるんではないか、というのは我々専門家の考えだ」とも明言している。

沙鴎一歩は尾身氏の意見に賛成である。それゆえ東京五輪の開催に反対した。

8月6日、菅義偉首相は広島の原爆死没者慰霊式・平和祈念式に出席した後に記者会見し、「東京の繁華街の人流はオリンピック開幕前と比べて増えていない。オリンピックが感染拡大につながっているという考え方はしていない」と話していた。

本当だろうか。感染の急拡大の直接の要因は感染力の強いデルタ株への置き換わりだが、五輪開催が影響していないとは言い切れない。五輪ムードで人々の気分が高揚し、とくに五輪会場周辺では人の流れが増えていた。東京の繁華街でも夏休みとも重なり、若者中心にかなりの人出があった。

菅首相はどんなデータをもとに話したのか。尾身氏が指摘した「人々の意識に与えた影響」についてはどう考えているのだろうか。