誤ったメッセージを送って人流を急増させた

「新型コロナウイルスの感染拡大防止を最優先に取り組んでいく」

記者会見や記者団のぶら下がり取材の度に私たち国民に向けて発した菅義偉首相の言葉だ。一国のトップとして当然の発言である。

経団連の十倉雅和会長と会談する菅義偉首相=2021年8月18日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
経団連の十倉雅和会長と会談する菅義偉首相=2021年8月18日、東京都千代田区

だが、この言葉を聞けば聞くほど本気で感染防止を進めてきたのか、疑わしくなり、菅首相が信じられなくなる。こんな人物に日本という国の舵取りを任せておいていいのだろうか。

思い出すのが、菅政権の肝いりで推進した昨年のGoToキャンペーンだ。感染拡大が収まっていないにもかかわらず、飲食や旅行を割引料金で後押しした。その結果、「感染と飲食は関係ない」「旅行しても構わない」という誤ったメッセージが国民に伝わり、人の移動を急増させて感染リスクを高めてしまった。

東京オリンピックの開催(7月23日~8月8日)もまったく同じだ。世界最大の祭典は人心を高揚させ、結果的に感染を拡大させる。にもかかわらず、菅首相は五輪を強行開催した。感染症対策の専門家らが感染力の強いインド由来の変異ウイルス「デルタ株」の流行を懸念していることを重視しなかった。

朝日新聞の社説をはじめとするメディアの論調には開催中止が目立ち、世論の半数も中止や延期に傾いていた。沙鴎一歩もこの連載で中止を主張した。菅首相の周辺からも開催中止を求める声が上ったが、菅首相は聞く耳を持たなかった。

残念ながら、東京パラリンピック(8月24日~9月5日)の開催も強行される模様である。

首相を続投することしか念頭にない

緊急事態宣言の発令やまん延防止等重点措置の適用を繰り返し、思い切った新たな対策が打てない菅政権を見ていると、「感染拡大防止を最優先に取り組んでいる」とは思えない。

たとえば、17日の新型コロナウイルス感染症対策本部で打ち出した人流の抑制のための新対策は、百貨店や地下商店街などの大型商業施設への入場整理の要請と、人が集まりやすく混雑する場所への外出半減の呼びかけぐらいだ。いずれも斬新な政策とは言えない。しかも緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が繰り返される都心では、若者を中心に政府の呼びかけに応じない人たちが増えている。新型コロナの患者が入院する病床や宿泊療養施設の確保は、感染拡大の急増に追いつかない。

いま必要なのは、菅首相の政治決断によって欧米のロックダウン(都市封鎖)に近い強硬策に踏み切ることだと思う。その間に医療提供体制などを立て直すことだ。それは国民の反発を覚悟したうえで自らの政治生命を賭けての決断である。しかし、それは菅首相にはできないだろう。なぜなら、秋の自民党総裁選と衆院解散・総選挙に勝って首相を続投することしか念頭にないからだ。